緑地帯 能登原由美 英国社会と音楽⑦
24年5月30日
「老人に対する差別だ」。学生時代に留学して以来、20年以上も世話になってきた英国の老夫婦が憤っていた。何でも、地元の駅が無人化されるらしい。彼らはその反対運動を行っていた。電車の予約や切符の売買はネット上で、改札もスマートフォンをかざして通る客が多い。もはや駅員は不要というわけだ。
けれども、こうした機器を持たない人、使えない人はどうなるのか。窓口での駅員との会話も大切な日常と夫婦は言う。今ではあらゆる場面にウェブによるシステムが導入され、その扱いに不慣れな高齢世代が皆困り果てているという。
確かに、キャッシュレス、ネットワーク化がこれほど進んでいるとは予想していなかった。買い物や施設への入館ばかりか、路上の売店や教会の献金まで。100円にも満たない公園のトイレ使用料もカード払いのみであったのには驚いた。料金箱だと盗まれやすいことが背景にあるのかもしれないがここまでとは。
実は、英国では王位交代に伴い、2022年12月にチャールズ新国王の横顔の肖像画が刻印された硬貨の流通が始まった。ただ、私自身も現金を使うことがほとんどなく、帰国までの9カ月間、一度も拝顔することなく終わってしまった。手元には、以前両替した旧硬貨がいまだにある。
だが帰国してみると、日本でもカード決済がかなり普及していた。加速度的な社会の変化をつくづく実感した。(大阪音楽大特任准教授=広島市出身)
(2024年5月30日朝刊掲載)
けれども、こうした機器を持たない人、使えない人はどうなるのか。窓口での駅員との会話も大切な日常と夫婦は言う。今ではあらゆる場面にウェブによるシステムが導入され、その扱いに不慣れな高齢世代が皆困り果てているという。
確かに、キャッシュレス、ネットワーク化がこれほど進んでいるとは予想していなかった。買い物や施設への入館ばかりか、路上の売店や教会の献金まで。100円にも満たない公園のトイレ使用料もカード払いのみであったのには驚いた。料金箱だと盗まれやすいことが背景にあるのかもしれないがここまでとは。
実は、英国では王位交代に伴い、2022年12月にチャールズ新国王の横顔の肖像画が刻印された硬貨の流通が始まった。ただ、私自身も現金を使うことがほとんどなく、帰国までの9カ月間、一度も拝顔することなく終わってしまった。手元には、以前両替した旧硬貨がいまだにある。
だが帰国してみると、日本でもカード決済がかなり普及していた。加速度的な社会の変化をつくづく実感した。(大阪音楽大特任准教授=広島市出身)
(2024年5月30日朝刊掲載)