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社説・コラム

[記者×思い] 外国人に映る原爆資料館とは 報道センター社会担当 野平慧一

  trong>考え事をすると、つい甘い物に手を伸ばしてしまうのがやめられない39歳。広島市出身。trong>

 原爆資料館(広島市中区)の入館者は昨年度、過去最多の198万人に達した。うち外国人は67万人と3分の1を占め、人数、割合とも年間記録を更新した。ただ、手放しで喜んでいいのか、混み合う館内を見るにつれ、疑問が膨らんでくる。

 きっかけは、資料館のある平和記念公園を案内している男性との会話だった。外国人への通訳を頼んだのを機に知り合い、ガイドの様子を教えてもらっている。

 先月、ポーランドからの旅行者に問われたという。「なぜ広島に原爆が落とされたのか。資料館を見ても理解できなかった」。男性は「その通り」と返してやり過ごそうとした。が、旅行者は「歴史を正しく伝えるのが重要で、加害の歴史もあるはずだ。ヨーロッパの博物館ではそうなっている」と続けた。ひと通り案内を終えると、男性は自ら考える原爆投下までの歴史的経緯を客観的史実に基づいて言葉を選びながら説明した。

 この話を聞き、4月に初めて訪れた呉市の大和ミュージアムが頭をよぎった。軍港呉は兵器の生産拠点でもあり、「加害の歴史」に関わった側面を持つ。館内では、戦艦大和を建造した科学技術の高さと、それが戦争でもたらした悲劇が示されている。

 原爆資料館は「被爆の実態をあらゆる国の人たちに伝え核兵器を廃絶する」のを目的に掲げ、「戦争博物館」とは異なる。展示の中心は犠牲者の遺品など実物資料だ。一方、一角で原爆開発から投下に至る流れを説明し、大型の情報端末でも資料を検索できる。それでも「加害の歴史を正しく伝えて」との声にどう向き合うか、外国人入館者が増える中で問われ続けるだろう。

 「戦争は突如起こるのではなく、起こるべくして起きる」と話す戦争体験者たちがいる。被害の歴史が結果なら、加害の歴史は原因といえる。いずれにも目を向け、私も外国人に聞かれた時にはきちんと答えたい。世界が過ちを繰り返さぬよう願って。

(2024年6月4日朝刊掲載)

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