『潮流』 虐殺、侵略を問えるか
24年6月6日
■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美
クラウドファンディングの普及に背を押され、さまざまな団体に毎月の自動引き落としで少額寄付をするようになった。一つは中東シリアで人道支援を続ける東京のNPO法人で、3年近くになる。今年、市民の尊厳と雇用を守る拠点として、靴とかばんの工房を開設した。大河の一滴でも寄付が届いたと思いたい。
シリアでは長年アサド政権が圧政を敷き、民主化要求運動「アラブの春」に触発された反体制デモを徹底弾圧した。内戦に発展すると、ロシアも加勢して反体制派拠点などに空爆を重ねた。内戦全体の死者は数十万人とも。独裁にあらがい、連行されたままの人も多数いるという。
そんな中、広島市内で11日、サッカーW杯アジア2次予選のシリア戦がある。エディオンピースウイング広島では初の日本代表戦。一戦への沸き立つ思いとは別に、「国際平和文化都市」をうたう被爆地の市民こそ、対戦国の為政者による戦争犯罪をもっと直視する機会とすべきではないか。
パレスチナ自治区ガザでの殺りくとも地続きだろう。市はロシアとベラルーシを平和記念式典に招かない一方、イスラエルは招待したことから「ダブルスタンダードだ」との批判が渦巻いている。一方でシリアや、国軍が市民を弾圧しているミャンマーなどは式典に招かれ続けている。どう考えるべきなのか。
世界のあらゆる人が広島の地を踏み、原爆被害の実態に触れてほしい。だが漠然と「平和」「停戦」を呼びかけても、非道を尽くす者にとっては痛くもかゆくもない。「虐殺するな」「侵略するな」と突き付けない限り、当事者は被爆地訪問で「平和」をまとい、免罪符を得るだけである。
(2024年6月6日朝刊掲載)
クラウドファンディングの普及に背を押され、さまざまな団体に毎月の自動引き落としで少額寄付をするようになった。一つは中東シリアで人道支援を続ける東京のNPO法人で、3年近くになる。今年、市民の尊厳と雇用を守る拠点として、靴とかばんの工房を開設した。大河の一滴でも寄付が届いたと思いたい。
シリアでは長年アサド政権が圧政を敷き、民主化要求運動「アラブの春」に触発された反体制デモを徹底弾圧した。内戦に発展すると、ロシアも加勢して反体制派拠点などに空爆を重ねた。内戦全体の死者は数十万人とも。独裁にあらがい、連行されたままの人も多数いるという。
そんな中、広島市内で11日、サッカーW杯アジア2次予選のシリア戦がある。エディオンピースウイング広島では初の日本代表戦。一戦への沸き立つ思いとは別に、「国際平和文化都市」をうたう被爆地の市民こそ、対戦国の為政者による戦争犯罪をもっと直視する機会とすべきではないか。
パレスチナ自治区ガザでの殺りくとも地続きだろう。市はロシアとベラルーシを平和記念式典に招かない一方、イスラエルは招待したことから「ダブルスタンダードだ」との批判が渦巻いている。一方でシリアや、国軍が市民を弾圧しているミャンマーなどは式典に招かれ続けている。どう考えるべきなのか。
世界のあらゆる人が広島の地を踏み、原爆被害の実態に触れてほしい。だが漠然と「平和」「停戦」を呼びかけても、非道を尽くす者にとっては痛くもかゆくもない。「虐殺するな」「侵略するな」と突き付けない限り、当事者は被爆地訪問で「平和」をまとい、免罪符を得るだけである。
(2024年6月6日朝刊掲載)