国際賢人会議 来夏にも提言へ 「核なき世界」への道 後退
24年6月8日
岸田文雄首相が創設した「核兵器のない世界に向けた国際賢人会議」の議論が本格化し、来夏までに提言をまとめると決めた。核兵器保有国と非保有国の有識者が「核なき世界」への道筋を探る場だが、過去4度の会合で核廃絶を真正面から検討したケースはない。急速に発展する人工知能(AI)のリスク管理が主要な論点で、あくまで核兵器の存在が前提となっている。これまでの議論を検証した。
■核廃絶の議論
会議は米中ロ英仏の核保有五大国や核兵器禁止条約に署名するニュージーランドなどの専門家15人が委員を務める。被爆地広島市で2022年12月に初会合を開き、東京や長崎市、横浜市にも集まった。
会合では世界的な核戦力増強の動向などが強調され、核兵器を持ち合って均衡を保つことで核戦争を回避するという核抑止論を容認する委員の声すら出る。首相が外相時代に設けていた前身の賢人会議は19年に「核抑止は世界の安全保障にとって危険」と指摘しただけに、いまの会議の議論は後退した印象を受ける。
5月の横浜市での会合では、海外の委員から「核なき世界」を掲げながら米国の核の傘に頼る日本の姿勢を問う声も上がったという。日本被団協の児玉三智子事務局次長は「核の傘からの脱却を正面から取り上げてほしい」と訴える。
■AIのリスク管理
主要テーマに浮上したのがAIの発達が核軍縮に及ぼすリスクの管理だ。委員の間には、核兵器の運用システムを不安定にし、核戦争の危険性を高めかねない―との問題意識がある。
会議は5月、意思決定に人間が関わる原則を確認した。座長の白石隆熊本県立大特別栄誉教授は、各国がAIの開発企業と対話する必要性を提言に盛り込む考えを示した。
長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の鈴木達治郎教授は「AI開発は民間で日々進んでおり、実態が分かりづらい。提言の方向性は間違っていない」と話す。
■政治指導者の関与
議論をするのは各国の委員計15人だけではない。会議は、元職を含む政治指導者も加わる点を特徴とうたう。実際に初会合には、現職米大統領として初めて広島を訪れたオバマ氏らがメッセージを寄せた。ただ議論には参加せず。委員と意見を交わした政治指導者は元職を含めても2人にとどまる。
会議は今年後半にオンライン会合を予定。来春に最終会合を開く。来夏までに、26年の核拡散防止条約(NPT)の再検討会議を見据えて提言をまとめる。(宮野史康)
核兵器のない世界に向けた国際賢人会議
岸田文雄首相が提唱。米中ロ英仏の核保有五大国と日本、ドイツ、アルゼンチン、ヨルダン、インドネシア、インド、ニュージーランドの専門家計15人が各国の立場を超え、核軍縮の道筋を探る。前身は岸田首相が外相時代の2017年に創設した賢人会議。
(2024年6月8日朝刊掲載)
■核廃絶の議論
会議は米中ロ英仏の核保有五大国や核兵器禁止条約に署名するニュージーランドなどの専門家15人が委員を務める。被爆地広島市で2022年12月に初会合を開き、東京や長崎市、横浜市にも集まった。
会合では世界的な核戦力増強の動向などが強調され、核兵器を持ち合って均衡を保つことで核戦争を回避するという核抑止論を容認する委員の声すら出る。首相が外相時代に設けていた前身の賢人会議は19年に「核抑止は世界の安全保障にとって危険」と指摘しただけに、いまの会議の議論は後退した印象を受ける。
5月の横浜市での会合では、海外の委員から「核なき世界」を掲げながら米国の核の傘に頼る日本の姿勢を問う声も上がったという。日本被団協の児玉三智子事務局次長は「核の傘からの脱却を正面から取り上げてほしい」と訴える。
■AIのリスク管理
主要テーマに浮上したのがAIの発達が核軍縮に及ぼすリスクの管理だ。委員の間には、核兵器の運用システムを不安定にし、核戦争の危険性を高めかねない―との問題意識がある。
会議は5月、意思決定に人間が関わる原則を確認した。座長の白石隆熊本県立大特別栄誉教授は、各国がAIの開発企業と対話する必要性を提言に盛り込む考えを示した。
長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の鈴木達治郎教授は「AI開発は民間で日々進んでおり、実態が分かりづらい。提言の方向性は間違っていない」と話す。
■政治指導者の関与
議論をするのは各国の委員計15人だけではない。会議は、元職を含む政治指導者も加わる点を特徴とうたう。実際に初会合には、現職米大統領として初めて広島を訪れたオバマ氏らがメッセージを寄せた。ただ議論には参加せず。委員と意見を交わした政治指導者は元職を含めても2人にとどまる。
会議は今年後半にオンライン会合を予定。来春に最終会合を開く。来夏までに、26年の核拡散防止条約(NPT)の再検討会議を見据えて提言をまとめる。(宮野史康)
核兵器のない世界に向けた国際賢人会議
岸田文雄首相が提唱。米中ロ英仏の核保有五大国と日本、ドイツ、アルゼンチン、ヨルダン、インドネシア、インド、ニュージーランドの専門家計15人が各国の立場を超え、核軍縮の道筋を探る。前身は岸田首相が外相時代の2017年に創設した賢人会議。
(2024年6月8日朝刊掲載)