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社説・コラム

『想』 佐々木(ささき)リョウ 命の賛歌

 このコラムを読み始めてくださったあなたと僕はこれが初めましてかもしれない。こんなふうに出会いは突然だが、人生に予定調和などない。運命なのだ。出会ってくれてありがとう。

 昨年6月、僕は父となった。10カ月前からこの出会いは分かっていたことだが、やはりその瞬間は緊張するものだ。そして対面したわが子、言葉を操る仕事を長年やってきたが、さすがに言葉を当てはめられない感動があった。しかしその感動もつかの間、分娩(ぶんべん)室が慌ただしい。聞けば、5千人に1人の割合で生まれてくる鎖肛(さこう)という病気を持っていると。それに伴いこれから救急車に乗り、大きな病院まで搬送されるとのことだ。

 病院に到着後すぐ大量の同意書にサインを書き、不安を抱える間もなく、翌日息子は人工肛門形成の手術を乗り切った。保育器の中、管だらけの体、父ちゃんよりずっと男前だ。あれから1年が経過したが、その間もいろいろな困難に耐えてきた命に心から感銘を受けている。

 息子と出会わなければ「鎖肛」という個性を知らない人生だったかもしれないが、必然だったに違いない。「とうちゃん、いのちってすごいんだよ」とまだしゃべれない小さな体からテレパシーで日々聞こえてくる。

 今、海の向こうでは知恵のついた大人たちが「戦争」を繰り返し、罪のない人が家族や友人、恋人、夢と永遠の別れを強制させられている。メディアでは記事が小さくなり、たまにテレビなどで見かけると「まだやってんのか」と人ごとのように思ってしまうときも正直ある。

 しかしながら広島という土地は、そのぬかるんだ気持ちを夏が近づくにつれ一掃してくれる。僕は生粋の広島生まれ、広島育ち。そして被爆3世の肩書を持つミュージシャン。毎年8月6日には広島市中区のアリスガーデンで「PEACE音学会」という平和コンサートを開催している。今年もまた息子が教えてくれた生きる尊さを「命の賛歌」に変換し、国際平和都市広島から愛と平和を歌う。「相」手を思いやる「心」が平和につながる。(ミュージシャン)

(2024年6月14日朝刊掲載)

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