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映画「オッペンハイマー」と広島 平和公園で聞いた外国人旅行者の見方 「欧米的な視点」「ここまで被害甚大とは」

 原爆開発を率いた物理学者の伝記映画「オッペンハイマー」は昨年7月に米国など世界各地で封切られ、大きな反響を呼んだ。被爆地広島を訪れる外国人旅行者は、事前に映画を見ているのだろうか。作品をどう受け止め、原爆が使われた地で何を思うのか―。広島市中区の平和記念公園で欧米やアジアからの旅行者に声をかけ、取材した。(小林可奈、新山京子)

 聞き取りに応じた約20人のうち約半数が「既に見た」と答えた。米アカデミー賞で作品賞など7部門を受賞した話題作である上、訪問地に広島を選んだ人たちゆえだろうか。見た場所は「映画館」「飛行機の中」「インターネット」とさまざまだ。

 作品は、大量破壊兵器を生み出した主人公の苦悩を描く。だが焦土と化した広島と長崎の街や、生きたまま焼かれた市民の姿は描写していない。米国から8カ月遅れて今年3月から公開中の広島では、批判も聞かれる。

 米国からの旅行者サミュエル・ガルシアさん(23)は、映画を鑑賞して「日本人の側に焦点を当てていないと感じた」と語る。このたび初めて広島の地を踏み「街の復興ぶりにも心を動かされた」。同じく米国から来たドナ・ホルストンさん(72)は原爆資料館を見学した直後に取材に応じ、「展示が伝えるあまりの惨状に鳥肌が立っている」と吐露した。

 「世界で封切られて以降、『映画を見たか』『なぜ日本でなかなか上映されないのか』と各国からの旅行者に連日質問されましたよ」。原爆ドーム前で英語でボランティアガイドを続ける胎内被爆者、三登浩成さん(78)=広島県府中町=は語る。「映画では分からない実態について、被爆者を通じて知りたいからでは」と感じている。

 「開発した側の科学者を被害者のように描いている。欧米的な視点の映画」。そう評したのはオーストラリアから来たマテオ・ディリジェントさん(22)だ。昨年も広島を訪れ、その後映画を鑑賞した。今回「原爆が何をもたらしたのか、もっと知りたい」と再来日し、長崎にも足を延ばす。

 ヒロシマとナガサキの実態を描写しない作品構成に理解を示す旅行者も。映画監督志望のスイス人、ノア・バズナさん(20)は原爆資料館を見学後「被害について知ってはいたが、ここまで甚大だったとは。『オッペンハイマー』で被害を描いたとしても、中途半端になりむしろ矮小(わいしょう)化されて伝わりかねない」と指摘した。

 英国人のエンゼル・ジョーンズさん(27)は「帰国後に映画を視聴したい」と言う。広島で感じたのは「被爆者を生む核兵器は必要ない」ということ。被爆地を実際に訪れた経験は、後に映画を鑑賞する際どのような意味を持つだろうか。

 英語の全国通訳案内士として平和記念公園内などを案内している「ひろしま通訳・ガイド協会」の八幡毅副会長(64)は「欧米からの旅行者に『映画を見て訪問を決めた』と言われることは多い」と話す。残留放射線や犠牲者数についてよく質問されるという。「ヒロシマへの関心の高まりを歓迎したい。ここで見聞きし、感じたことを帰国後に広めてほしい」

(2024年6月17日朝刊掲載)

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