核禁止条約賛同阻む「欠陥」指摘 被害国に救済義務 問題視 ニュージーランドの国際法学者 フッドさん
24年6月17日
核兵器禁止条約への賛同を広げる立場から、その「欠陥」をあえて指摘する国際法学者がいる。ニュージーランド・オークランド大のアンナ・フッド准教授(40)。問題視するのは核兵器を使った国ではなく、被害国が救済義務を負う点だ。国際討論会への参加で来日した今月、東京都内で考えを聞いた。(宮野史康)
―禁止条約の問題点とは何でしょうか。
核被害者の援助と環境の修復に関する6条、7条だ。その一義的な責任は核兵器の被害を受けた人と地域を有する国にあるとし、他の国々は「可能な限り」協力すると定めている。本来は核兵器を使った加害国こそ義務を負うべきで、不公平だ。
―なぜこのような規定になったのでしょう。
ニュージーランドやスイスが、核被害国の義務とするよう主張した。仮に米ロなどの核保有国に責任を課しても条約に加わらないのなら被害者救済が果たされない、との判断だった。「被害国こそ適切な支援ができる」と主張した国もあった。しかし、被害の特定に欠かせない核爆発のデータを持つのは核兵器を使った国だ。
―どのような影響が出ていますか。
条約の加盟国数が伸び悩む要因になっている。例えばマーシャル諸島。米国の核実験の被害国だが「(被害者支援の)義務を負ういわれはない」と加わっていない。被害国の多くは新興国で財政力に乏しく、支援に充てる資金が集まりづらいという問題もある。
―どう解決しますか。
軍縮条約の歴史を見ても、条文改正のハードルは高い。運用面で改善するのが現実的だろう。来年3月の禁止条約の第3回締約国会議に向け、核被害者を救済する国際信託基金の設置議論が進んでいる。加盟国以外も出資できるようにすれば、核保有国の関与を引き出せる。日本も広島、長崎の被爆者を支援してきた知見を生かし、議論に貢献してほしい。
≪略歴≫1983年、ニュージーランド・オークランド生まれ。オーストラリア・メルボルン大で博士号取得。米シンクタンク「軍備管理協会」勤務を経て、2024年から現職。専門は国際軍縮法。
核兵器禁止条約
核兵器の開発や製造、使用などを違法と定めた初の国際条約で2017年7月に国連で採択。21年1月に発効した。前文で被爆者の苦しみに触れている。ニュージーランドやメキシコなど核兵器を持たない国々が制定を主導。これまで93カ国・地域が署名、70カ国・地域が批准した。
(2024年6月17日朝刊掲載)
―禁止条約の問題点とは何でしょうか。
核被害者の援助と環境の修復に関する6条、7条だ。その一義的な責任は核兵器の被害を受けた人と地域を有する国にあるとし、他の国々は「可能な限り」協力すると定めている。本来は核兵器を使った加害国こそ義務を負うべきで、不公平だ。
―なぜこのような規定になったのでしょう。
ニュージーランドやスイスが、核被害国の義務とするよう主張した。仮に米ロなどの核保有国に責任を課しても条約に加わらないのなら被害者救済が果たされない、との判断だった。「被害国こそ適切な支援ができる」と主張した国もあった。しかし、被害の特定に欠かせない核爆発のデータを持つのは核兵器を使った国だ。
―どのような影響が出ていますか。
条約の加盟国数が伸び悩む要因になっている。例えばマーシャル諸島。米国の核実験の被害国だが「(被害者支援の)義務を負ういわれはない」と加わっていない。被害国の多くは新興国で財政力に乏しく、支援に充てる資金が集まりづらいという問題もある。
―どう解決しますか。
軍縮条約の歴史を見ても、条文改正のハードルは高い。運用面で改善するのが現実的だろう。来年3月の禁止条約の第3回締約国会議に向け、核被害者を救済する国際信託基金の設置議論が進んでいる。加盟国以外も出資できるようにすれば、核保有国の関与を引き出せる。日本も広島、長崎の被爆者を支援してきた知見を生かし、議論に貢献してほしい。
≪略歴≫1983年、ニュージーランド・オークランド生まれ。オーストラリア・メルボルン大で博士号取得。米シンクタンク「軍備管理協会」勤務を経て、2024年から現職。専門は国際軍縮法。
核兵器禁止条約
核兵器の開発や製造、使用などを違法と定めた初の国際条約で2017年7月に国連で採択。21年1月に発効した。前文で被爆者の苦しみに触れている。ニュージーランドやメキシコなど核兵器を持たない国々が制定を主導。これまで93カ国・地域が署名、70カ国・地域が批准した。
(2024年6月17日朝刊掲載)