『生きて』 カメラマン 三浦憲治さん(1949年~) <8> 言葉を紡ぐ人
24年6月18日
海外ロケ同行 人柄知る
1975年のある日、「三浦さん、うちの女の子撮ってよ」って声をかけられた。師匠である長浜治さんの義理の弟が当時、ユーミン=荒井(松任谷)由実のマネジャーだった。
ユーミンはちゃんとした歌詞を書けて弾き語りもできる。米国のシンガー・ソングライター、キャロル・キングに似ていると思っていた。紀伊国屋ホールであったライブで、初対面の俺に「私を外国人ミュージシャンだと思って撮って」って言ってたかな。その後もジャケット写真を5、6枚撮った。
≪海外ロケに最も多く同行したミュージシャンがユーミンだ≫
雑誌の仕事で南米やチベット、ハワイなどに行った。雑誌「ガリバー」(マガジンハウス)ではロシアへロケット打ち上げを見に行き、宇宙服姿を撮った。モナコではF1レースを観戦し、アイルトン・セナをピット近くで見た。何でも興味を示すユーミン。ノートによくメモをしていた。その観察力が歌詞につながっているんだろうね。
≪作家村上春樹さんとは83年、雑誌「ブルータス」(マガジンハウス)の企画でドイツへ≫
ルフトハンザ航空で行ったんだけど、飛行機がハンブルク空港に着く直前の機内放送で、ビートルズの「ノルウェーの森」がインストゥルメンタルで流れたんだ。「村上さん、これ『ノルウェーの森』ですよね」って話した。数年後に出版された村上さんの「ノルウェイの森」の冒頭に、その時と同じ描写があって感動したよ。
ハンブルクでは村上さんと一緒に街を歩いた。レコード店で、俺が新宿駅東口で撮ったイギリスのロックバンド、ピルのジャケットを見つけた。俺の写真だと伝えると「すごいじゃない」とお褒めの言葉をもらった。
ユーミンも村上さんも、若い頃から同じような音楽を聴いてきたという共通点がある。2人と仕事をして、音楽を愛し、言葉を紡ぐ人たちの隠れたエピソードに触れた気がした。
(2024年6月18日朝刊掲載)