社説 ウクライナ支援 和平への道 粘り強く探れ
24年6月18日
ロシアに侵攻されたウクライナの和平をテーマに、初の「世界平和サミット」が主催国のスイスで開かれた。欧米に加え、アジアやアフリカからも、首脳級出席の57カ国を含む100の国・国際機関が参加した。
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ウクライナの苦境を踏まえて、連れ去られた子どもを含む全市民の帰国などを盛り込んだ共同声明が、大半の国の支持を得て採択された。一応の成果を出したといえよう。
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ただ、和平への道は見えてこない。侵攻したロシアは招かれず、中国は欠席した。ロシア寄りの新興国も首脳級を出さず、共同声明への支持も見送るなど、深い溝の存在が浮き彫りになった。
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とはいえ、軍事力や核兵器をちらつかせた威嚇により、国境を含む現状変更を認めることはできない。他国の主権や領土の侵害は国際法違反であり、ロシアの暴挙は断じて許されない。国際社会の結束を強めなければならない。
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サミットでは、ウクライナが提唱した和平案「平和の公式」10項目のうち、中立的な立場の国からも賛同が得られそうな3項目に絞って議論した。市民の帰国に加え、食料の安定供給を妨げ「武器」とすることの禁止や、ロシアが占拠する原発の安全確保などである。ロシア軍の即時全面撤退などの項目は理解を得られないと判断したようだ。
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それでも、インドや南アフリカ、ブラジル、サウジアラビアなどロシア寄りの国は共同声明を支持しなかった。
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ウクライナには中国の動きが誤算だったのではないか。今までは「中立」をアピールしており、ロシアへの影響力を、ウクライナのために使ってもらう期待があった。
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それが、ここに来て地金があらわになる。サミット欠席に加え、ブラジルと共に示した独自の問題解決案は、ロシアへの配慮が色濃いという。
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一方、ロシアはサミットでの包囲網形成を回避しようと画策してきた。欠席するよう新興国に圧力をかけた上、開幕前日には、併合したと一方的に宣言した東・南部4州からのウクライナ軍撤退など独自の「現実的な和平提案」を示した。事実上、降伏を迫る内容で、盗っ人たけだけしいと言わざるを得ない。
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ロシアを撤退させる展望が見いだせず、米国や日本など先進7カ国(G7)も苦しい立場にある。先週の首脳会議で、ロシアの凍結資産を基に8兆円近い規模の資金を援助することを決めた。
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ただ、足元では支援疲れが目立ち、支援継続への疑問や不満が噴き出している。支援に前向きな政権が次の選挙で交代しかねない国がある。
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日本も問われている。岸田文雄首相はサミットでの演説で地雷除去など、日本ならではの形で貢献すると述べた。民生面での復興支援こそ、平和国家にふさわしい。
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国際社会は、ウクライナの和平を粘り強く探り続けねばならない。今も日々、犠牲となる市民が増えている。領土の一体性に対する脅迫や武力行使はしない―。共同声明で確認した国際法の原則を改めて胸に刻む必要がある。
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(2024年6月18日朝刊掲載)