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連載・特集

『生きて』 カメラマン 三浦憲治さん(1949年~) <10> アートディレクター

豊かな発想 世界広げる

  ≪広告がアートとしての存在感をさらに高めた1980年代。憧れていたパルコの広告を撮ることになった≫

 パルコ広告のカメラマンは横須賀功光さん、坂田栄一郎さんら。アートディレクターとして世界的に活躍したデザイナーの石岡瑛子さん、コピーは糸井重里さんという豪華メンバーが携わっていた。そこになぜか俺が呼ばれた。

 アートディレクターの井上嗣也さんから、米ソウル歌手ジェームス・ブラウンの撮影を頼まれた。撮影時間は「セックス・マシーン」1曲を歌い終わるまでの数分だけ。ライブと同じ音響システムを持ち込んだスタジオでカメラ4台で撮った。彼は予想以上に動いたので撮影が難しかったけれど、一発勝負の緊張感がたまらなく面白かったね。パルコ広告ではその後、「SPECIAL IN YOU.君も、特別。」もクリエーター箭内(やない)道彦さんと一緒にやっている。

  ≪もう一つ念願がかなった仕事がある。93年から撮り始めた資生堂の企業文化誌「花椿」だ≫

 高校時代から憧れていた雑誌でね。資生堂なのに化粧品の宣伝ページがほとんどないんだから。アートディレクターの仲條正義さんに、米マイアミでファッションを撮らないかと声をかけられた。

 仲條さんはとにかく発想豊かで面白い人。メキシコにサッカーのユニホームに似たファッションを撮りに行ったり、中東の雰囲気を醸すファッションをパリで撮ったり。ハワイでの撮影で海岸にすし屋の屋台セットを造ったことも。仲條さんは撮影前に毎回、自身のイメージを簡単な絵にして伝えてくれるんだけど、その通りになったことは一度もない。状況に合わせて、どんどん変えていくから。

 パルコ広告は写真一枚で勝負する面白さ、花椿は写真を組み合わせて一つの物語のように見せていく楽しさがあった。アートディレクターが新たな世界を見せてくれた。

(2024年6月20日朝刊掲載)

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