『生きて』 カメラマン 三浦憲治さん(1949年~) <12> 歌舞伎もロック
24年6月25日
「和」を撮る仕事加わる
≪1996年、ライフワークに歌舞伎が加わった≫
きっかけは雑誌「Oggi」(小学館)の依頼で坂東玉三郎さんを撮影したこと。全く歌舞伎の知識がない俺に玉三郎さんは丁寧に説明してくれて、幕すれすれの舞台袖からも撮らせてくれた。その後も雑誌「和楽」(同)で歌舞伎を撮っている。
洋楽ライブを撮り続けてきた自分が、和の歌舞伎を撮ったらどうなるか―。そこも興味深かった。ただ本番撮影には制約があり、音楽ライブのように自由に動き回ることができない。客席の後ろに座ってイヤホンガイドで粗筋を聞きながら撮っていくんだけど、撮れば撮るほど歌舞伎はロックに重なる部分が多いと感じるんだよね。
デビッド・ボウイのメークはよく見ると隈(くま)取りだし、見えを切るような動きもある。きっと彼も歌舞伎を見ていたんじゃないかな。ハードロックバンド、KISSのメンバーのメークも隈取りに近い。日本古来の打楽器を使ったリズムも、早変わりも、花道を走る演出もロックに通じる。宙づりはロックでもやっているからね。
≪最近はほぼ毎月、歌舞伎座へ撮りに行く。昨年11月には超特大写真集「十三代目 市川團十郎白猿」(小学館)が出版された≫
超特大写真集のカメラマンは篠山紀信さんと宮沢正明さん、俺の3人。2022年にあった襲名披露公演を最新のカメラを使って細部まで撮っている。写真集の重さは15キロ。1ページの大きさは新聞の見開きと同じくらいある。重くて大きいから「SUMO本」って呼ばれている。
音楽の場合、リズムに合わせて撮っていけばタイミングが合う。だけど歌舞伎には決めの型があり、それを外したら台無しになる。でも、あるとき中村福助さんに言われたんだ。「三浦さんの写真のタイミングは他の人とちょっと違いますね」って。どこか微妙にずれているんだろうね。でも、この「ずれ」が三浦憲治らしさなんだと思う。
(2024年6月25日朝刊掲載)