海自呉地方隊創設70年 第3部 現場のリアル <2> 女性登用
24年6月28日
育休など環境整備進む
避難所運営で活動ニーズ
「イケメンにモテたい♡」「みんなが幸せでありますように」…。海上自衛隊呉地方総監部(呉市)の第1庁舎の玄関付近に設けられた七夕飾りには、隊員たちの書いた短冊が取り付けられていた。
発案者は、5年半前に呉地方隊で2人目の女性の先任伍長となった林田美智子さん(47)。「狙いはないですよ。ただ隊員にほっこりしてもらいたくて」と口元を緩める。
海曹士を統括する先任伍長は指揮官の思いを分かりやすく伝え、指導したり相談に乗ったりする。雰囲気づくりの要でもある。現在、同隊では女性の先任伍長は7人まで増えた。
林田さんが入隊した1995年、女性は少なかった。先輩は産後も休暇を最低限しか取らずに復帰していたが、今は子どもが3歳になるまで育児休暇を取得できる。護衛艦には女性の居住区画が整備され、生理用品の処分に気を使わなくてもいいような改善もあった。
海自が初めて女性を採用して今年でちょうど50年。女性自衛官は増え続け、2022年は3870人と全体の9%を占める。防衛省は災害派遣での避難所のニーズ把握など細やかな活動に求められる機会が増えているとみる。
地方総監も誕生
自衛隊は女性の配置制限を順次見直し、18年には潜水艦での制限も解除。現在はほぼ全面解除となっている。20年には呉で女性乗員を養成する教育が始まり、同年、初の乗員が誕生。横須賀(神奈川県)だけだった教育隊での女性の受け入れも昨年から呉で始まった。
昨年12月には幹部候補生学校(江田島市)の学校長だった近藤奈津枝さんが海自で最も階級の高い海将となり、大湊地方総監部(青森県)トップの地方総監に就くなど、登用も進む。
「隊員が笑顔で」
「人口減が進み、自衛隊の維持に女性が必要という面もあると思う。時代の要請もあり、働きやすい環境が整ってきたから女性が増えたとも言える」と林田さん。「嫌なことは嫌とはっきりと言えて、隊員が笑顔で向かえる職場にしたい」と願う。
ただ一方で、自衛隊内ではハラスメント被害が後を絶たない現実もある。呉地方隊も例外ではない。
男性に抱きつかれるなどのセクハラを受けた女性隊員が拒否したにもかかわらず、加害者から直接謝罪を受けさせられた問題が昨年、明るみに出た。元自衛官の五ノ井里奈さん(25)による性被害の訴えをきっかけにした特別防衛監察が進んでいる最中だったこともあり、海自トップの酒井良海上幕僚長は「大変申し訳なく責任を感じている」と陳謝した。
「私も希望を持って入隊した。でも夢は、すぐに打ち砕かれた」。呉地方隊に勤務経験のある女性は明かす。配属された現場で待っていたのは日常的なセクハラ行為だった。
(2024年6月28日朝刊掲載)