×

ニュース

岸田首相 あす就任1000日 高まる政治不信 苦難のかじ取り

 岸田文雄首相は29日、首相就任から千日を迎える。戦後に35人いる首相では8番目の大台到達となる。憲法改正に意欲を見せるとともに外交や経済政策に注力。一方で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題や自民党派閥の裏金事件が表面化し、政治と内閣への不信を招いた。節目を前に、首相のかじ取りを見つめ直した。

■経済

賃上げ提唱 実感は乏しく

柱に据えた「富の分配」かすむ

 首相は21年9月の総裁選から自らの経済政策「新しい資本主義」を掲げ、「成長と分配の好循環」を柱に据えてきた。昨年10月の臨時国会の所信表明で「経済、経済、経済」と連呼するなど経済最優先の姿勢を再三強調してきた。

 とりわけ実現を唱えてきたのは賃上げだ。確かに、円安による輸出企業の業績伸長などを背景に、名目賃金は今年4月まで28カ月連続で前年同月を上回った。しかし、ロシアのウクライナ侵攻による燃料や食料品など幅広い物価の高騰のあおりを受け、実質賃金は同月まで過去最長の25カ月連続で前年割れ。多くの消費者が賃上げを実感しにくい状況が続く。

 「新しい資本主義」の核心だった「富の分配」はかすんでいる。首相は総裁選で格差縮小による中間層の拡大を掲げ、就任後も「分配なくして成長はなし」と繰り返してきた。しかし、富裕層を念頭にした金融資産への課税強化は実現しないまま。代わりに幅広い層に投資を促す「資産所得倍増」を推し進めている。(秋吉正哉)

■内政

裏金と旧統一教会問題 表面化

改正規正法には「不十分」の声

 首相就任直後の2021年10月の衆院選、翌22年7月の参院選と2度の国政選挙に勝利し政権基盤を保った。総裁選で掲げた地方振興策「デジタル田園都市国家構想」などに力を注いだ。22年末には防衛力強化に伴う増税を表明したが、世論の反発を招いた。火消しを図らんとばかりに昨年10月には所得税、住民税の定額減税を決めた。

 憲法改正にも前向きな姿勢を示し続けている。今月あった3年ぶりの党首討論でも、野党から問われることもなく自ら主張した。ただ、目標とする総裁任期(9月末)までの実現は困難な情勢だ。

 政権運営では、旧統一教会問題と自民党派閥の裏金事件という二つの不祥事に見舞われた。いずれも震源は安倍派。同派のベテラン秘書は「うちの負の遺産が政権を苦しめた」と認める。

 旧統一教会問題は安倍晋三元首相の死を契機に安倍派議員と教会側との密接な関係が次々と判明。裏金事件は派閥の政治資金パーティーの収入の一部をキックバック(還流)で受け取る安倍派の慣例を端緒に、捜査当局も強制捜査に踏み切った。いずれも内閣支持率の下落を招いた。

 首相の対応を巡り、その指導力に疑問符が付いた。裏金事件を巡る安倍派幹部らの処分は問題が表面化した5カ月後。「対応が遅過ぎる」との声が首相に近い重鎮からも漏れた。

 国内に広がる政治不信には「火の玉」になって対応すると意気込んだ。今月閉会した通常国会で政治資金規正法を改正した。パーティー券購入者名の公開基準額を引き下げたが、政策活動費の使途の10年後公開など「不十分」との指摘もくすぶる。政権の支持率は好転せず、正念場が続く。(樋口浩二)

■外交

米を重視 群抜く訪問回数 核政策「従属」に被爆者反発

 「外交の岸田」を自負する首相は就任以来、精力的に海外を訪問してきた。21年11月の英国に始まり今年6月のスイスまで、行き先は延べ54カ国・地域に上る。19日に1回外国を訪れている計算になり、77日に1回だった菅義偉前首相の4倍のペースを刻んでいる。

 中でも重視するのは米国だ。23年5月に広島市で開いた先進7カ国首脳会議(G7サミット)前の調整や国連総会などで7回訪問。続くインド、インドネシア、英国、イタリアの3回を引き離す。24年4月には9年ぶりに国賓待遇で訪米。外務省幹部は「日米関係は今が最も良好」と誇る。

 安全保障面でも米国との結び付きを強める。核戦力を含む米国の拡大抑止を背に「防衛力の抜本強化」を推進。国家安全保障戦略など安保関連3文書を22年12月に閣議決定した。

 核兵器禁止条約には背を向け、米国の臨界前核実験にも抗議していない。ライフワークとする「核なき世界」に逆行するとの指摘もある。広島サミットで採択したG7初の核軍縮文書「広島ビジョン」では核兵器の存在意義を明記してもいる。

 日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(92)は「米国の核政策に従属しており、日本独自の施策がない。核兵器が使われかねない危機を真剣に捉え、廃絶に取り組んでほしい」と訴えている。(宮野史康)

(2024年6月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ