×

ニュース

南方留学生の遺族 墓参り 被爆のユソフさんめい 広島の寺訪問 足跡たどり「自国で伝える」

 「南方特別留学生」として広島文理科大(現広島大)へ留学中に被爆死したニック・ユソフさんの遺族が光禅寺(広島市佐伯区)を訪れ、墓参りをした。戦後に遺骨が埋葬された経緯などを聞き、当時の足跡をたどった。

 ユソフさんのめいに当たるマレーシア在住のニック・マヒザンさん(63)。境内にあるイスラム式の墓の前で、親族ら7人とコーランを唱えた。

 ユソフさんは第2次世界大戦中の1943年に来日。19歳のとき爆心地から約900メートルの学生寮で被爆し、大やけどを負って五日市方面へ逃れたが息絶えたという。前住職の星月空(ひろし)さん(76)が「骨壺(こつつぼ)が寺に持ち込まれ、当時の住職が死を悼んで墓を建てた」と説明。毎年8月6日に法要が営まれていると知ったマヒザンさんは「墓を守っている人たちに感謝したい」と話した。

 南方特別留学生は、親日的な指導者を育成しようと当時の日本が設けた国費留学制度。マヒザンさんはマレーシア出身で広島市立大准教授のヌルハイザル・アザムさんを通じて墓の存在を知り、初めて広島を訪れた。原爆資料館(中区)を見学し、被爆後に留学生たちと過ごした栗原明子さん(98)を安芸区の原爆養護ホームに訪ねた。

 マヒザンさんは「父が私の兄にユソフと名付けたほど、家族にとって伯父は忘れられない存在。帰国後、広島で知ったことを周りに伝えたい」と話した。(新山京子)

(2024年7月1日朝刊掲載)

年別アーカイブ