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連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第3部 現場のリアル <4> 心の負荷

過酷な環境や人間関係

「うんざり」若手が離職

 「全てがストレス」。海上自衛隊呉基地(呉市)を母港とする潜水艦での勤務経験がある20代の男性隊員は、狭い室内で長時間過ごす過酷な状況をこう表現する。

 艦内は薄暗く、出航中のシャワーは数日に1回。艦内の水は専用機器で海水から作る。「腹を下すから」と、持ち込んだペットボトル飲料だけを飲む隊員もいるという。1カ月以上、海の中にいたという別の隊員は「気がおかしくなりそうだった」と明かす。

仕事取り上げ

 隊員の心を削るのは任務の過酷な環境だけではない。呉地方隊に勤務するある男性は「仕事内容よりも、人間関係の方が疲れる」と漏らす。艦艇勤務の場合、乗る護衛艦や潜水艦によって雰囲気に違いがあり、「当たり外れ」は隊員にとって大きな関心事だ。

 元隊員の男性は以前勤めていた部署の同僚が、上官から大勢の前で怒鳴られる様子を何度も目撃した。仕事を取り上げられ、代わりに業務内容に関する分厚い説明書を「全て暗記しろ」と強要されるようになった。同僚はやがて心を病んだという。「誰かをストレス発散の道具にしがちで、指導とパワハラの区別もできてない」と断じた。

 最新の「自衛隊総合採用案内」のパンフレットは生き生きとした表情の自衛官の写真を掲載。仕事のやりがいや安定したワークライフバランスをアピールする。

 ただ、自衛官の中途退職者は増加傾向にある。防衛省によると、2022年度の中途退職者は6174人と過去15年で最多となった。自衛官全体に占める割合は2・7%。1%前後の警察官や一般国家公務員と比べて高い。

 同省によると、階級が一番低い「士」クラスの退職者は近年、離職者全体の3分の2程度で推移。若手の離職率が高いことがうかがえる。

 多くの相談を受けてきた「自衛官の人権弁護団・全国ネットワーク」の佐藤博文代表は、安保関連3文書の決定で防衛力が強化される中、「実戦のリアリティーが増しているのも退職者が増える一因ではないか」と分析する。

処遇改善に力

 同省は宿舎の設備改善や艦船の乗組員手当の増額など処遇改善に力を入れる。ただ、海自に6年勤めた後に退職したという30代の男性は「環境が過酷な上に、理不尽なことで怒鳴られることもあり、うんざりして辞めた。同じ気持ちの人も多いと思う」と突き放す。

 広島大でハラスメント相談室非常勤相談員を務める横山美栄子名誉教授は「隊の中で嫌だと言えないまま辞めていく状況になっていないか。せっかく税金をかけて育てた人材が逃げて行くなら本末転倒だ」と強調。その上で「いじめや嫌がらせは組織を壊すという認識を上から下までが持っていることが大切だ」と指摘する。=第3部おわり (この連載は小林旦地、衣川圭、栾暁雨が担当しました)

(2024年6月30日朝刊掲載)

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