連載・特集

　広島港から望むと、きれいな三角形の山が波間に浮かんで見える。似島だ。小さな富士山のような見た目通り、山の名前は安芸の小富士。周囲１０キロほどの島は、自転車で１周できる。

　似島臨海少年自然の家は、臨海学校等でたくさんの子どもたちを受け入れてきた。コテージや大浴場等をリニューアルし、今年の春、ユーハイム似島歓迎交流センターに生まれ変わった。３月１６日に行われたオープニングセレモニーに参列した。

　３月半ばになっても、どんよりと曇った寒い日が続いたが、この日だけは、奇跡のような穏やかな天候になった。建物の外で行われたセレモニーだったが、コートも必要なく、あたたかな陽（ひ）が参列者を包んでいた。

　一緒に招待された中に、東京からやってきたミュージカル関係者がいた。懐かしい４人の顔。東京で会ってから、ちょうど１年目の再会に心躍った。

　彼らは、わたしが書いた児童書「バウムクーヘンとヒロシマ―ドイツ人捕虜ユーハイムの物語」（くもん出版）を原作に、昨年３月、六本木の俳優座劇場でミュージカル公演をおこなった。ミュージカルカンパニー・イッツフォーリーズ。「見上げてごらん夜の星を」や「ゲゲゲの鬼太郎」等多数を作曲したいずみたく氏が創設者だ。

　似島を舞台にした物語を書いたことで、思いがけないさまざまな縁がつながった。（すやま・ひろみ　児童文学作家＝広島市）

（２０２４年７月２日朝刊掲載）