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「広島民俗」100号記念誌 県史編さん機に半世紀 教材に生かす試みなど寄稿

 広島民俗学会が学会誌「広島民俗」の100号記念誌を出版した。民俗学者宮本常一の監修による「広島県史 民俗編」が編さん作業に入った年の1973年、県内の研究者たちの研さんと交流に資する目的で創立され、昨年は50年の節目も迎えていた。(客員編集委員・佐田尾信作)

 100号は325ページに及び、会員16人が寄稿した。元教員の石川律子は「民俗学と社会科教育」と題し、太田川の舟運や雁木(がんぎ)について小学生が学びを深めたことを報告。民俗学の肝である「聞き取り」とは対人関係を築くことだと述べている。

 松崎哲は色鮮やかな広島の盆灯籠について、自身が見聞した中国の遺跡の墓地に彩陶壺(さいとうつぼ)が副葬されていたことと重ね合わせて論述。中道豪一は昨年発見された「御供船(おともんぶね)の艫(とも)飾り」を取り上げ、原爆でついえた戦前の広島デルタの祭礼に触れている。佐古憲作「広島県西部の狛犬(こまいぬ)文化」は個別調査に基づく労作であり、太平洋戦争で供出された鋳物製の狛犬の消息や戦後の復元にも言及した。

 備後地方の民俗については、高木泰伸「尾道吉和漁業聞き書き」▽原田隆雄「県北の農家の家屋と暮らしの変化」▽正本真理子「民俗学徒 山田次三と郷土学」などを収録。記録映像作家でもある青原さとしは制作中の映画「中国山地・牛と人風土記」への道のりを明かし「牛耕文化は中国山地の各地に牛馬の安全を祈願する祭りや大田植などの民俗芸能を生み出した」と述べている。

 「近年は国内各地から広島県内の盆行事や郷土食などについての問い合わせが届く。民俗文化の価値が再認識されつつあると感じる」と会長の岡崎環。巻末には創刊号からの掲載論文リスト、現地研究会やシンポジウムの一覧を収めている。

 記念誌は寄贈分を除く100冊を1冊3500円(別に送料370円)で販売する。申し込みと入金を確認後発送する。広島民俗学会事務局ファクス082(227)0179。電子メールinfo@hiroshima‐folklore.org(敬称略)

(2024年7月3日朝刊掲載)

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