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連載・特集

「沖縄戦の図」今日的意義は 丸木夫妻作品を追った映画監督 河邑厚徳さんが書籍

全14図から「記憶」に迫る

 映画「丸木位里・丸木俊 沖縄戦の図 全14部」(2023年、88分)の河邑(かわむら)厚徳監督が、「ドキュメント『沖縄戦の図』全14部」=写真=を岩波書店(東京)から出版した。映画の制作過程をたどりながら自身の思考の軌跡をつづり、映像とはひと味違う表現で、「沖縄戦の図」が持つ力や今日的意義を伝えている。(森田裕美)

 「沖縄戦の図」は、「原爆の図」で知られる広島市出身の丸木位里(1901~95年)と妻の俊(12~2000年)が1983~87年に共同制作した14部の連作。絵画を通し、人に死を強いる不条理を告発してきた2人は82年末、沖縄に渡る。少しでも沖縄戦の実情を理解し心で迫ろうと、体験者の声に耳を傾け、「あらゆる地獄を集めた」ともいわれる悲惨の細部を筆に託した。

 日本の敗戦後に起きた旧軍兵士による島民虐殺を描いた「久米島の虐殺」(83年)に始まり、縦4メートル、横8・5メートルの大画面で死者の声を表現した「沖縄戦の図」(84年)、「沖縄戦 読谷三部作」(87年)まで5年がかりで描き上げた。

 所蔵する佐喜眞美術館(沖縄県宜野湾市)でこれら作品群と対面した河邑さんは「魂をわしづかみにされた」という。2020年、2年後の本土復帰50年に向け若い人に沖縄戦を伝えるドキュメンタリーの制作を考えていた時だった。

 「絵が、見ている私に何か語りかけているよう。丁寧に見ていけば描き込まれた沖縄戦が語り出すのでは」。14図を制作順に追い、ゆかりの人の声を交えながら夫妻による制作の意図や過程に迫った映画が完成した。

 本書では、河邑さんの「沖縄戦の図」との出合いから作品の背景となった沖縄の歴史や現状、映画では描ききれなかった舞台裏などを紹介。河邑さんの言葉による14図の「再現」でもあり、絵画を通して沖縄戦の記憶を伝える模索の記録でもある。河邑さんの心の動きも見て取れ、読みながら筆者と伴走しているような感覚になる。

 14図の連作は「今という時代が求める作品。1945年の出来事だけでなく、現在の沖縄を取り巻く問題とも二重写しになっている」と河邑さん。「これらの絵を通して、私たちはこれからの日本をどうするのか、日本はどこへ向かうのか、考えてほしい」と力を込める。A5判、144ページ。2530円。

(2024年7月5日朝刊掲載)

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