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社説・コラム

社説 英政権交代 新首相は核軍縮再検討を

 英国は下院(定数650)の総選挙で与党保守党が惨敗、最大野党の労働党が圧勝し14年ぶりに政権交代した。

 保守党は議席を200以上減らす歴史的な敗北だった。2020年の欧州連合(EU)離脱から経済が低迷し物価高も市民生活を直撃した。不祥事や首相交代も続き、有権者が離反したのも無理はない。党首のスナク氏は選挙結果を受け「(有権者から)怒りと失望の声を聞いた」と首相を辞任した。

 一方、労働党は400を超える議席を獲得し党首のスターマー氏が新首相に就いた。国政に対する国民の信頼回復と経済、社会の立て直しが急務だ。

 選挙戦で労働党は「親ビジネス、親労働者」を掲げた。経済を成長、安定させ、国家医療制度(NHS)を立て直す方針だ。新政権も自由主義経済と福祉政策の両立を目指したブレア労働党政権の中道路線に近いとみられている。

 外交では、関係が冷え切ったEUとの関係修復が急がれよう。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、足元の欧州で安全保障の協力を強めるべきだという世論に沿った対応が迫られそうだ。

 ジョンソン保守党政権が打ち出したグローバル・ブリテン(世界的な英国)戦略の扱いが焦点になる。EU離脱後は対中国を念頭にアジア重視の傾向が強かった。労働党は米英豪の安全保障枠組みAUKUS(オーカス)など保守党政権が結んだインド太平洋地域の連帯も重視すると説明しているが、日本を含めたアジア展開に注目したい。

 英国は核保有国であり、配備済みの120発を含め225発の核弾頭を持つ。

 冷戦終結後、約30年にわたって核軍縮を進めていたが、ジョンソン政権下の21年に大きく転換した。核弾頭の保有数の上限を180発から260発に引き上げたのだ。軍事力を強化する中国やロシアへの対抗とみられるが、国際社会には不安をもたらした。

 スターマー首相も、北大西洋条約機構(NATO)と核抑止力の重視を打ち出している。ただ、労働党は伝統的に核軍縮に積極的だったはずだ。特に前党首のコービン氏は一貫して核廃絶を主張していた。

 ロシアに加え、パレスチナ自治区ガザで戦闘を続けるイスラエルも、核兵器の使用を選択肢にする姿勢を示している。世界で核使用の危険は急速に高まっている。

 こうした情勢下で、世界122カ国・地域が賛成して採択された核兵器禁止条約は、批准国が増え続けている。安全保障を核の抑止力に頼れば核の廃絶は進まず、危険はいつまでもなくならない。

 昨年の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で原爆資料館を見学したスナク氏は、被爆者の恐怖と苦しみは「どんな言葉を用いても言い表すことができない」と芳名録につづった。

 スターマー首相は「わが国には大きなリセットが必要」と述べている。英国を核軍縮の流れに引き戻すリセットも検討するべきではないか。

(2024年7月8日朝刊掲載)

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