緑地帯 巣山ひろみ バウムクーヘンと似島⑤
24年7月9日
似島の捕虜収容所でのカール・ユーハイムの生活が知りたいと思った。しかし、戦時中の軍の資料は抹消され、ほとんど残っていなかった。ただ、似島臨海少年自然の家(現ユーハイム似島歓迎交流センター)では、100年前のユーハイムのレシピを使い、バウムクーヘン作り体験ができるという。わたしは早速、友人2人を誘ってやって来た。
広島港からフェリーで20分ほど。下り立った桟橋から見た海は青く澄んで魚がたくさん泳いでいた。自然の家に着くと、120年間、似島の出来事を見てきた木、くすのきじいさんが枝を広げて、待っていてくれた。
炭をおこし、卵、小麦粉、砂糖、バターを合わせたケーキ生地を竹に垂らしては焼き重ねていく。2人で竹の両端を持ち、ぐるぐる回しながら炭火であぶる。お菓子作りのイメージを一新する豪快さである。汗水垂らして焼き上げたバウムクーヘンのおいしかったこと。約100年前、広島県物産陳列館で食べた人たちも同じように感じたことだろう。「うまいのお」と言い合う人々の笑顔、普通にあったはずの生活に思いをはせた。
似島の戦争遺構の案内をされているピースボランティアガイドMさんとのご縁があった。収集されていた島民の声や歴史に、似島の収容所での出来事や写真が多数あり、惜しみなく見せてくださった。また、自然の家指導員Sさんの聞かせてくださった戦争に関する見解は本の骨子となった。(児童文学作家=広島市)
(2024年7月9日朝刊掲載)
広島港からフェリーで20分ほど。下り立った桟橋から見た海は青く澄んで魚がたくさん泳いでいた。自然の家に着くと、120年間、似島の出来事を見てきた木、くすのきじいさんが枝を広げて、待っていてくれた。
炭をおこし、卵、小麦粉、砂糖、バターを合わせたケーキ生地を竹に垂らしては焼き重ねていく。2人で竹の両端を持ち、ぐるぐる回しながら炭火であぶる。お菓子作りのイメージを一新する豪快さである。汗水垂らして焼き上げたバウムクーヘンのおいしかったこと。約100年前、広島県物産陳列館で食べた人たちも同じように感じたことだろう。「うまいのお」と言い合う人々の笑顔、普通にあったはずの生活に思いをはせた。
似島の戦争遺構の案内をされているピースボランティアガイドMさんとのご縁があった。収集されていた島民の声や歴史に、似島の収容所での出来事や写真が多数あり、惜しみなく見せてくださった。また、自然の家指導員Sさんの聞かせてくださった戦争に関する見解は本の骨子となった。(児童文学作家=広島市)
(2024年7月9日朝刊掲載)