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被爆2世の思い 全国訪ね収録 写真家の吉田敬三さん

 長崎の被爆2世で写真家の吉田敬三さん(63)=沖縄県石垣市=が写真集「被爆2世の肖像」を南山舎(沖縄)から刊行した。自分と同じ被爆2世を全国に訪ね歩き、被爆者の親と生きてきた子世代の表情と思いを収めた。

 「歳月を経ても語らない、語れない被爆者は多くいる。そんな親と一緒に過ごした子の世代には親の生きざまを伝え、語られぬ声を伝える役割がある」。吉田さんは写真集に込めた思いを語る。

 吉田さんの母親は10歳の時に長崎で被爆。毎年8月9日には体験を話してくれていたが、子どもの頃は「また昔の話を」と真剣に聞いていなかったという。

 吉田さんは陸上自衛隊勤務などを経て、報道写真家樋口健二氏に師事、紛争地などを取材してきた。カンボジア内戦の撮影中、雑談した現地兵に長崎出身だと話すと原爆について尋ねられたが、何も答えられなかった。「一番身近な親の体験も知らなかった」

 ほかの2世は親の被爆体験をきちんと聞いているか知りたくなり2003年、全国の被爆者団体に2世を紹介してもらえるよう手紙を送った。差別や偏見への恐れを理由に断られることも多かったが、少しずつ理解を得て今年2月までに31都道府県で130人を撮影。併せて聞き取りもした。

 親から直接体験を聞いていた2世は半数もいなかった。親は子どもへの影響を心配し、子どもの側は「つらい記憶を思い出させるのでは」とためらっていた。「近さゆえの難しさもあります」

 ただ、撮影をきっかけに、初めて親の体験に耳を傾け、伝えようとする人も少なくないという。「私たち世代が記憶を継承する姿が、過ちを繰り返さないというメッセージになれば」と話す。B5判、234ページ。2750円。(森田裕美)

(2024年7月15日朝刊掲載)

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