天風録 『フランス革命と五輪』
24年7月14日
フランス革命記念日のきょう、五輪開幕まで2週間を切ったパリを聖火リレーが巡る。バスチーユ広場に着くのは夕刻とか。ここにあった監獄を1789年7月14日、民衆が襲撃。10年に及ぶ革命の発端となった▲そのさなか、世界中で採用されている計測法が生まれたのをご存じだろうか。メートル法である。自由や平等の礎に、度量衡の普遍のルールが必要だった。当時の仏国内は無数の単位が混在し、領主のさじ加減で変わることもしばしばだったという▲メートル法の普及はスポーツの国際化と無縁ではなかろう。近代五輪でも採用される。五輪の父、クーベルタン男爵は100年前のパリ五輪で「より速く、より高く、より強く」と唱えた。誰もが同じルールと互いを尊重する平和の祭典の理念となる▲一方で五輪は政治の波に翻弄(ほんろう)された。「もし100年後にこの世に戻ってきたなら、私は五輪を破壊するかもしれない」。理念の無理解を嘆く言葉が残る▲ウクライナやガザで戦闘がやむ気配はない。自国第一主義が世界にはびこり、五輪の理想と現実のひずみが広がる。男爵が今によみがえったとしたら、故郷を駆ける聖火の炎をどんな思いで見つめるだろう。
(2024年7月14日朝刊掲載)
(2024年7月14日朝刊掲載)