なし崩し的容認 不安視も 市や県 国に安全照会し判断 岩国 オスプレイ年内配備
24年7月17日
国が地元自治体に15日伝えた米軍岩国基地(岩国市)への輸送機オスプレイの配備計画。米軍は年内の配備を予定し、岩国市や山口県などは安全面などを国に照会して対応を判断する。市は米空母艦載機の岩国への移転などを認めてきた経緯があり、事故が多発する機種のなし崩し的な受け入れを不安視する声も上がる。(有岡英俊、川村奈菜、菊本孟)
15日午前、同市役所。「日米同盟や米軍の活動に深い理解を賜り、厚くお礼申し上げたい」―。松本尚防衛政務官が切り出した。岩国基地には2014年にKC130空中給油機15機、18年に艦載機約60機が移転している。容認してきた市の判断に改めて感謝した。
配備計画の説明を受けた福田良彦市長はオスプレイについて「少なからず不安を持つ市民もいる」と安全性の確保について尋ね、改めて文書で質問すると伝えた。桑原敏幸市議会議長は8月に全員協議会を開く考えを示し、国側の説明を求めた。市側も国側も原稿を読み上げるやりとりが20分余りで終わった。
例年、艦載機は岩国基地を5月に離れ、秋に洋上から戻る。艦載機のC2輸送機の後継となるオスプレイは、今秋の帰還に合わせて配備されるとみられる。「9月議会で意思表明をしないと間に合わない」。市と市議会は対応を加速させる。
g>「命と生活守れ」 g>
「ついにオスプレイまで常駐するのか」。岩国基地の動きを長年追い続ける元市議の田村順玄さん(78)は嘆いた。ステルス戦闘機F35Bの配備、空母艦載機の移転…。基地の滑走路が10年に1キロ沖合に移って以降、市は国防への協力姿勢を鮮明にし、基地の機能が強まったと映る。「オスプレイは欠陥機であり不安。市は市民の命と生活を守る義務がある。市長には毅然(きぜん)とした判断を求めたい」
基地近くの川下地区。昨年11月の鹿児島県・屋久島沖での墜落事故に対する住民の不安は大きい。旭第一自治会の江波(えなみ)三郎会長(78)は「自分の家に墜落する危険性もある。市民の命に勝るものはない。配備は反対だ」と語気を強める。
一方、同地区では現実的な対応を求める声も上がる。旭第二自治会の為重英雄会長(73)は「米軍も安全に気を付けている。配備を受け入れるのであれば十分な振興策を求めたい」と話す。国からの説明の場でも、受け入れた場合の財政支援について市議が尋ねた。
g>隣接自治体 波紋 g>
隣接する広島県の自治体にも波紋は広がる。廿日市市総務課は「配備する機数や飛行経路などの情報提供がなく、引き続き、国を通じて米軍に情報開示を求めていきたい。オスプレイの安全性への懸念は払拭されていない。市民生活に影響を及ぼさないよう、引き続き要請していきたい」とする。
軍事評論家の前田哲男氏は、岩国基地へのオスプレイ配備やステルス戦闘機F35Cなどの機種更新を南西諸島防衛の強化の一環とみる。日米は軍事活動を強める中国を念頭に訓練を活発化させ、岩国基地には他基地から戦闘機が飛来している。
オスプレイについて前田氏は「開発段階から事故が多い。屋久島沖での墜落事故の原因も公表されておらず、市や県はしっかり追及するべきだ」と強調。「飛行経路や訓練場所を把握し、市民に伝えなければならない」と指摘する。
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g>世界各地で相次ぐ事故 g>
米軍の輸送機オスプレイは開発段階から安全性が問題視され、2007年に実戦配備された後も世界各地で事故が相次いでいる。
12年4月、海兵隊機がモロッコで演習中に墜落事故を起こし、4人が死傷した。15年5月には米ハワイで着陸に失敗して2人が死亡し、17年8月には普天間飛行場(沖縄県)の所属機がオーストラリア沖で墜落し3人が死亡した。22、23年にはノルウェーや米国、オーストラリアで墜落し、計12人が亡くなった。
日本国内でも16年12月、普天間飛行場所属の海兵隊機が沖縄県名護市沖に不時着し大破した。昨年11月には岩国基地から沖縄へ向かって飛び立った横田基地所属の空軍機が鹿児島県・屋久島沖で墜落し、8人が死亡した。米軍は同12月、全てのオスプレイの飛行を停止した。今年3月、原因について「特定の部品の不具合」と詳細を公表せず、安全対策を講じれば問題ないとして飛行を再開した。(川村奈菜)
(2024年7月17日朝刊掲載)
15日午前、同市役所。「日米同盟や米軍の活動に深い理解を賜り、厚くお礼申し上げたい」―。松本尚防衛政務官が切り出した。岩国基地には2014年にKC130空中給油機15機、18年に艦載機約60機が移転している。容認してきた市の判断に改めて感謝した。
配備計画の説明を受けた福田良彦市長はオスプレイについて「少なからず不安を持つ市民もいる」と安全性の確保について尋ね、改めて文書で質問すると伝えた。桑原敏幸市議会議長は8月に全員協議会を開く考えを示し、国側の説明を求めた。市側も国側も原稿を読み上げるやりとりが20分余りで終わった。
例年、艦載機は岩国基地を5月に離れ、秋に洋上から戻る。艦載機のC2輸送機の後継となるオスプレイは、今秋の帰還に合わせて配備されるとみられる。「9月議会で意思表明をしないと間に合わない」。市と市議会は対応を加速させる。
「ついにオスプレイまで常駐するのか」。岩国基地の動きを長年追い続ける元市議の田村順玄さん(78)は嘆いた。ステルス戦闘機F35Bの配備、空母艦載機の移転…。基地の滑走路が10年に1キロ沖合に移って以降、市は国防への協力姿勢を鮮明にし、基地の機能が強まったと映る。「オスプレイは欠陥機であり不安。市は市民の命と生活を守る義務がある。市長には毅然(きぜん)とした判断を求めたい」
基地近くの川下地区。昨年11月の鹿児島県・屋久島沖での墜落事故に対する住民の不安は大きい。旭第一自治会の江波(えなみ)三郎会長(78)は「自分の家に墜落する危険性もある。市民の命に勝るものはない。配備は反対だ」と語気を強める。
一方、同地区では現実的な対応を求める声も上がる。旭第二自治会の為重英雄会長(73)は「米軍も安全に気を付けている。配備を受け入れるのであれば十分な振興策を求めたい」と話す。国からの説明の場でも、受け入れた場合の財政支援について市議が尋ねた。
隣接する広島県の自治体にも波紋は広がる。廿日市市総務課は「配備する機数や飛行経路などの情報提供がなく、引き続き、国を通じて米軍に情報開示を求めていきたい。オスプレイの安全性への懸念は払拭されていない。市民生活に影響を及ぼさないよう、引き続き要請していきたい」とする。
軍事評論家の前田哲男氏は、岩国基地へのオスプレイ配備やステルス戦闘機F35Cなどの機種更新を南西諸島防衛の強化の一環とみる。日米は軍事活動を強める中国を念頭に訓練を活発化させ、岩国基地には他基地から戦闘機が飛来している。
オスプレイについて前田氏は「開発段階から事故が多い。屋久島沖での墜落事故の原因も公表されておらず、市や県はしっかり追及するべきだ」と強調。「飛行経路や訓練場所を把握し、市民に伝えなければならない」と指摘する。
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米軍の輸送機オスプレイは開発段階から安全性が問題視され、2007年に実戦配備された後も世界各地で事故が相次いでいる。
12年4月、海兵隊機がモロッコで演習中に墜落事故を起こし、4人が死傷した。15年5月には米ハワイで着陸に失敗して2人が死亡し、17年8月には普天間飛行場(沖縄県)の所属機がオーストラリア沖で墜落し3人が死亡した。22、23年にはノルウェーや米国、オーストラリアで墜落し、計12人が亡くなった。
日本国内でも16年12月、普天間飛行場所属の海兵隊機が沖縄県名護市沖に不時着し大破した。昨年11月には岩国基地から沖縄へ向かって飛び立った横田基地所属の空軍機が鹿児島県・屋久島沖で墜落し、8人が死亡した。米軍は同12月、全てのオスプレイの飛行を停止した。今年3月、原因について「特定の部品の不具合」と詳細を公表せず、安全対策を講じれば問題ないとして飛行を再開した。(川村奈菜)
(2024年7月17日朝刊掲載)