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核兵器 安全保障に寄与せず パグウォッシュ会議新会長のシャハリスタニ氏 被爆80年の来年 「広島で世界大会を」

 核兵器廃絶を目指す科学者たちの国際組織「パグウォッシュ会議」の新会長に、科学者で元イラク石油相のフセイン・シャハリスタニ氏が就任した。旧フセイン政権下で核開発への協力を拒んだ末、11年間の投獄と拷問に耐えた信念の人。中国新聞のオンライン取材に応じ、「核兵器はいかなる国の安全保障にも寄与しない」と力を込めた。(小林可奈)

  ―先々代の故ジャヤンタ・ダナパラ元国連事務次長、先代の故セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮担当上級代表を継いでの就任です。どんな思いから引き受けると決めたのですか。
 東西冷戦が1989年に終結して以降で、核保有国間の緊張は今が最も高まっている。ウクライナやパレスチナ自治区ガザで続く戦争を巡り、核使用をちらつかせて威嚇する発言も聞かれる。そんな世界情勢の下で打診され、これからの人生を核兵器廃絶にささげると決めた。

  ―どんな課題を重視していますか。
 米国、ロシア、中国ともに核実験施設を改修する動きがあるが、核実験の再開は核軍拡を招くものであり容認できない。(2026年に失効する)米ロの新戦略兵器削減条約(新START)の延長も訴える。

 核を含めた「中東非大量破壊兵器地帯」設立を目指す議論は、国際的な議論が進まないままだ。各国に再開を働きかけるイニシアチブを取りたい。当然ながら皆にとっての最終的なゴールは、核兵器禁止条約を通じて核兵器のない世界を実現すること。もっとも、どれもパグウォッシュ会議だけでなし得ることではない。世界の人々の良心とともに歩み、核兵器廃絶へ科学者の団体として一翼を担いたい。

  ―旧フセイン政権下で苛烈な拷問を受けてなお核開発への協力を拒み、「国のためにならない」と訴えたそうですね。
 自らの自由や命を失うのか、あるいはおびただしい死や病をもたらすか、選択を迫られたときに迷う余地はない。フセイン元大統領の異父弟は私に、核兵器は「中東の地図を書き換えることができる武器だ」と言い放った。戦争を起こし、多数の命を奪うことをちゅうちょしない人間の手中に渡ればどうなるのか、十分に想像できる。

 核兵器が近隣諸国との戦争を抑止し、信頼関係を高め、安全保障に役立つのか。イスラエルを見ればわかるだろう。核兵器はいかなる国にも安全をもたらすことはなく、逆に事態を悪化させる。

  ―被爆地について思うところはありますか。
 原爆の惨禍を経験した広島と長崎の市民は、核兵器のない世界を目指す運動の先頭に立ってきた。彼らが受けた苦しみは、世界のどこでも繰り返されてはならない。被爆80年となる来年の節目に、広島でパグウォッシュ会議の世界大会を開きたい。実現に向けてぜひ支えてほしい。

 1942年、イラク中部カルバラ生まれ。カナダ・トロント大で博士号(核化学)。「核研究センター」やバクダッド大などで研究。フセイン政権下の79年に逮捕されアブグレイブ刑務所に収監。91年に脱獄し生還を果たす。2003年のフセイン政権崩壊後、国民議会副議長や石油相、高等教育・科学研究相などを歴任。5月から現職。

パグウォッシュ会議
 湯川秀樹氏ら米ソの水爆実験競争に危機感を持つ世界の著名な物理学者や哲学者たち11人が署名した「ラッセル・アインシュタイン宣言」(1955年)を受け、57年にカナダ・パグウォッシュ村で初会議を開いたのを機に発足。科学的根拠を示しての提言や対話の呼びかけは、部分的核実験禁止条約(PTBT)や核拡散防止条約(NPT)成立に影響を与え、95年にノーベル平和賞を受賞した。95年と2005年は広島市、15年は長崎市で大会を開いている。

(2024年7月22日朝刊掲載)

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