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社説・コラム

天風録 『「スパイ」指定』

 15歳で初来日し、天才的な鍵盤さばきでブームを起こした。それから三十数年、ロシアのピアニスト、エフゲニー・キーシン氏は先週、政府から「スパイ」指定を受けた。ウクライナ支援が逆鱗(げきりん)に触れたようだ▲政敵だけではなく、芸術家でも歯向かう者は許さない。いかにも、プーチン大統領らしいやり方ではないか。もっともキーシン氏は近年、チェコに居を移したから、今年11~12月の日本ツアーへの影響はなさそう。ほっとしているファンも多いはず▲こちらは、ロシアでスパイ活動をしていたとして懲役16年の判決が言い渡された。米経済紙の記者である。プーチン政権が隠し通したい事実を暴こうとしたのだろうか。無実を訴えたが、非公開の審理で断罪された▲今は第3次大戦の瀬戸際にある。ロシアの横暴をきっかけにそんな言葉が聞かれるほど危機感が広がっている。何せ核兵器の使用までちらつかせているのだ。止める手は何かないものか▲きょうスイスで始まる核拡散防止条約(NPT)の会議を生かしたい。核軍縮に真剣に取り組むようロシアを含む保有国に迫る場としなければ。芸術の楽しみや明日を夢見ることが、人類から奪われないために。

(2024年7月22日朝刊掲載)

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