天風録 『囲碁の危機』
24年7月21日
ピンチは時に、前へ進む原動力になる。囲碁の世界もそう。長く対立してきた棋士らが「このままでは駄目だ」と関東大震災を機に結束。翌1924年に生まれた日本棋院は今月、100周年を迎えた▲45年には本部が東京大空襲で焼け落ちた。会場を広島に移した本因坊戦の対局は原爆の爆風に見舞われる。世に言う「原爆対局」の後も打ち継ぎ、最古のタイトル戦を途絶えさせなかったことに驚く。戦火にめげない不屈の精神が戦後の隆盛を生む▲囲碁離れの逆風は今が最大かもしれない。競技人口は130万人。40年前の1割程度という。460万人の将棋と比べ、ルールや勝敗が分かりにくい印象を持つ人が多いと聞いた。娯楽が多様化する中で、一目置かれる存在からは遠ざかりつつある▲人気回復の布石に―と日本棋院は女子プロによる団体リーグを27日から始める。広島や福岡など全国5チームが1年かけ争う。広島の「若鯉(わかごい)」の中心は18歳の上野梨紗女流棋聖。地元に愛されるチームになってほしい▲巻き返しは、先人たちの得意手だろう。トップ棋士や指導者、愛好家が結束し、この難局を突破できるか。次の100年につながる棋界の底力を見てみたい。
(2024年7月21日朝刊掲載)
(2024年7月21日朝刊掲載)