スイスで22日開幕のNPT第2回準備委 専門家に聞く
24年7月22日
2026年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた第2回準備委員会が22日、スイス・ジュネーブで始まる。昨年の第1回準備委は討議内容をまとめた議長総括を残せなかっただけに、成果を出せるかが焦点となる。現地を訪れる大学教授と市民団体職員に注目点を聞いた。(宮野史康)
iv style="font-size:106%;font-weight:bold;">一橋大大学院教授 秋山信将さん iv>
iv style="font-size:106%;font-weight:bold;">課題把握へ試行錯誤の場 iv>
―前回準備委は議長総括を残せませんでした。
議長総括に反発したイランをNPT体制につなぎ留めようとした結果ともいえる。議長の権限が弱まり、締約国の拒否権が強まったというネガティブな影響もある。
救いはあくまで、準備委の場だったという点だ。準備委は26年の再検討会議で成果を出すために課題を把握し、どう処理するか知恵を出す機会。今回も議長総括を出せない可能性はあるが、試行錯誤の一環と捉えれば致し方ない面もある。
―NPT加盟国の分断が深まっています。
体制に問題があるのではなく、安全保障環境の悪化が大きな影を落としている。ロシアのウクライナ侵攻は、核軍備管理を巡る米ロ間の対立に拍車をかけた。パレスチナ自治区ガザでの戦闘では、米国がイスラエルに断固たる姿勢を示せず、アラブ諸国が不信感を抱いている。
―NPT再検討会議の意義をどう考えますか。
最終文書が採択されなくても、必ずしも失敗ではない。加盟国の認識の違いが分かれば、溝を埋める前提ができる。核兵器を持つ米ロ英仏中を交えて核軍縮や不拡散を論じるNPTの場はやはり重要だ。
―日本政府の役割は。
今は各国のとりまとめに動くのではなく、さまざまな議論に参加するのが大事だ。核兵器の材料となる物質の生産を禁じる兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始に向け、9月に初会合を開くフレンズ(友好国)会合は意義ある貢献だ。核軍縮に向け、消えかかっている議題を維持できる。
あきやま・のぶまさ
静岡県生まれ。広島市立大広島平和研究所講師、在ウィーン国際機関日本政府代表部公使参事官を経て現職。岸田文雄首相が創設した「核兵器のない世界に向けた国際賢人会議」の委員も務める。一橋大卒。56歳。
iv style="font-size:106%;font-weight:bold;">「核兵器をなくす日本キャンペーン」職員 浅野英男さん iv>
iv style="font-size:106%;font-weight:bold;">核軍縮は利益 まず認識を iv>
―今回の準備委に何を期待しますか。
核兵器の近代化や軍拡、各地での戦争の現状を踏まえれば、成果を出すのは簡単ではない。だが政治的な対立とは関係なく、核戦争や軍拡競争の回避、核軍縮は各国共通の利益だ。その認識を共有することがスタートラインになる。
―NPT体制の限界を指摘する声もあります。
実効性が問われている。特に核軍縮の交渉義務を定めた第6条は過去の合意を履行できず、停滞している。米国をはじめとした西側諸国と中ロの大国間競争が先鋭化し、各国が自国の利益をむき出しにしている。
―市民社会はどう取り組むべきですか。
核兵器非保有国と協力し、全ての保有国に等しくプレッシャーをかけないといけない。対話の拒否や核軍拡は第6条の趣旨に反すると声を上げていく。核の軍備管理と核軍縮は、全ての国の利益になると訴えたい。
―日本政府の役割は。
来年の被爆80年に向け、現状を変える大胆な提案をしてほしい。核使用のリスクが冷戦後最も高まっているといわれる今こそ、核兵器の非人道性を全ての国に訴えてほしい。26年に失効する米ロの新戦略兵器削減条約(新START)の次の条約に向け、米ロが交渉の場に着くような外交努力も期待している。
―現地で何に取り組みますか。
開幕から5日間、ウェブ配信をする。国内外の専門家たちを招き、会議の現状を紹介する。ウェブサイトには解説記事も載せる。市民の視点を通じ、多くの人に当事者意識を持ってもらいたい。
あさの・ひでお
茨城県生まれ。神戸大大学院で世界のヒバクシャを研究。米ミドルベリー国際大学院モントレー校修了後、今年4月に現職。政府に遅くとも2030年までの核兵器禁止条約への加盟を求める活動を展開している。27歳。
(2024年7月22日朝刊掲載)
―前回準備委は議長総括を残せませんでした。
議長総括に反発したイランをNPT体制につなぎ留めようとした結果ともいえる。議長の権限が弱まり、締約国の拒否権が強まったというネガティブな影響もある。
救いはあくまで、準備委の場だったという点だ。準備委は26年の再検討会議で成果を出すために課題を把握し、どう処理するか知恵を出す機会。今回も議長総括を出せない可能性はあるが、試行錯誤の一環と捉えれば致し方ない面もある。
―NPT加盟国の分断が深まっています。
体制に問題があるのではなく、安全保障環境の悪化が大きな影を落としている。ロシアのウクライナ侵攻は、核軍備管理を巡る米ロ間の対立に拍車をかけた。パレスチナ自治区ガザでの戦闘では、米国がイスラエルに断固たる姿勢を示せず、アラブ諸国が不信感を抱いている。
―NPT再検討会議の意義をどう考えますか。
最終文書が採択されなくても、必ずしも失敗ではない。加盟国の認識の違いが分かれば、溝を埋める前提ができる。核兵器を持つ米ロ英仏中を交えて核軍縮や不拡散を論じるNPTの場はやはり重要だ。
―日本政府の役割は。
今は各国のとりまとめに動くのではなく、さまざまな議論に参加するのが大事だ。核兵器の材料となる物質の生産を禁じる兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始に向け、9月に初会合を開くフレンズ(友好国)会合は意義ある貢献だ。核軍縮に向け、消えかかっている議題を維持できる。
あきやま・のぶまさ
静岡県生まれ。広島市立大広島平和研究所講師、在ウィーン国際機関日本政府代表部公使参事官を経て現職。岸田文雄首相が創設した「核兵器のない世界に向けた国際賢人会議」の委員も務める。一橋大卒。56歳。
―今回の準備委に何を期待しますか。
核兵器の近代化や軍拡、各地での戦争の現状を踏まえれば、成果を出すのは簡単ではない。だが政治的な対立とは関係なく、核戦争や軍拡競争の回避、核軍縮は各国共通の利益だ。その認識を共有することがスタートラインになる。
―NPT体制の限界を指摘する声もあります。
実効性が問われている。特に核軍縮の交渉義務を定めた第6条は過去の合意を履行できず、停滞している。米国をはじめとした西側諸国と中ロの大国間競争が先鋭化し、各国が自国の利益をむき出しにしている。
―市民社会はどう取り組むべきですか。
核兵器非保有国と協力し、全ての保有国に等しくプレッシャーをかけないといけない。対話の拒否や核軍拡は第6条の趣旨に反すると声を上げていく。核の軍備管理と核軍縮は、全ての国の利益になると訴えたい。
―日本政府の役割は。
来年の被爆80年に向け、現状を変える大胆な提案をしてほしい。核使用のリスクが冷戦後最も高まっているといわれる今こそ、核兵器の非人道性を全ての国に訴えてほしい。26年に失効する米ロの新戦略兵器削減条約(新START)の次の条約に向け、米ロが交渉の場に着くような外交努力も期待している。
―現地で何に取り組みますか。
開幕から5日間、ウェブ配信をする。国内外の専門家たちを招き、会議の現状を紹介する。ウェブサイトには解説記事も載せる。市民の視点を通じ、多くの人に当事者意識を持ってもらいたい。
あさの・ひでお
茨城県生まれ。神戸大大学院で世界のヒバクシャを研究。米ミドルベリー国際大学院モントレー校修了後、今年4月に現職。政府に遅くとも2030年までの核兵器禁止条約への加盟を求める活動を展開している。27歳。
(2024年7月22日朝刊掲載)