核軍縮へ成果残せるか NPT第2回準備委 22日開幕 続く戦禍 主張対立恐れも
24年7月20日
2026年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた第2回準備委員会が22日、スイス・ジュネーブで始まる。昨夏の前回準備委では、討議内容をまとめた議長総括を公式文書に残せず、加盟国間の分断が浮き彫りとなった。今回も戦禍が続く中東情勢の影響などで、成果物を残せるか懐疑的な見方がある。日本政府の役割を含め、三つの論点でポイントを整理した。
■中東情勢
今回の準備委に影を落とすのが、昨年10月から続くパレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘だ。核兵器を持つイスラエルはNPTに加盟しておらず、中東諸国からの不満が根強い。軍事力を背景にガザ地区への攻撃を続けており、後ろ盾となっている米国と中東諸国が準備委で対立する恐れがある。
ガザでの戦闘を巡ってはイスラエルの閣僚や米下院議員から核兵器使用の必要性を示唆する発言もあった。ロシアによる核威嚇も相まって被爆者からは「近年で最も核兵器の使用が危ぶまれる事態」との懸念が上がり、核軍縮を掲げるNPTは正念場を迎えている。
■成果の見通し
準備委は会議の閉幕に合わせ、論点を整理した議長名の総括文書を出すのが慣例だ。全会一致が前提ではないが、前回はイランが自国の核合意を巡る表現に反発。ロシアやシリアが同調し、議長自ら文書を取り下げる異例の幕切れとなった。
今回の準備委について外務省幹部は、中東情勢を踏まえ「前回以上に厳しいやりとりになりそうだ」とみる。議長総括が再度まとまらない可能性を想定し「議論が深まることに意味がある」と弱気な姿勢ものぞかせる。
NPT再検討会議は15年にイスラエルの非核化を念頭にした中東非核地帯構想、22年はウクライナ情勢を巡って決裂した。NPT体制そのものの機能不全を指摘する声も強まっている。
■日本政府の役割
政府は昨年の広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)でまとめた核軍縮文書「広島ビジョン」を基に「核軍縮の機運を高める」との姿勢を貫く。ただこの文書に対しては、核兵器の保有を前提にした核抑止力を「事実上肯定している」との批判も根強い。
広島で7歳の時に被爆した日本被団協の児玉三智子事務局次長(86)は、今回の準備委でいとこをみとった体験を証言する。「二度と被爆者を生まないため、政府は核抑止を乗り越える取り組みを打ち出してほしい」と求める。(宮野史康)
核拡散防止条約(NPT)
1970年に発効し、191カ国・地域が加盟する。米ロ英仏中に核兵器の保有を認める代わりに核軍縮の交渉義務を課す。事実上の核保有国であるイスラエル、インド、パキスタンは未加盟。北朝鮮は2003年に脱退を表明した。原則5年ごとに再検討会議を開き、核軍縮や不拡散の取り組みを盛り込んだ最終文書の合意を目指す。3年前から毎年、準備委員会を開く。
(2024年7月20日朝刊掲載)
■中東情勢
今回の準備委に影を落とすのが、昨年10月から続くパレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘だ。核兵器を持つイスラエルはNPTに加盟しておらず、中東諸国からの不満が根強い。軍事力を背景にガザ地区への攻撃を続けており、後ろ盾となっている米国と中東諸国が準備委で対立する恐れがある。
ガザでの戦闘を巡ってはイスラエルの閣僚や米下院議員から核兵器使用の必要性を示唆する発言もあった。ロシアによる核威嚇も相まって被爆者からは「近年で最も核兵器の使用が危ぶまれる事態」との懸念が上がり、核軍縮を掲げるNPTは正念場を迎えている。
■成果の見通し
準備委は会議の閉幕に合わせ、論点を整理した議長名の総括文書を出すのが慣例だ。全会一致が前提ではないが、前回はイランが自国の核合意を巡る表現に反発。ロシアやシリアが同調し、議長自ら文書を取り下げる異例の幕切れとなった。
今回の準備委について外務省幹部は、中東情勢を踏まえ「前回以上に厳しいやりとりになりそうだ」とみる。議長総括が再度まとまらない可能性を想定し「議論が深まることに意味がある」と弱気な姿勢ものぞかせる。
NPT再検討会議は15年にイスラエルの非核化を念頭にした中東非核地帯構想、22年はウクライナ情勢を巡って決裂した。NPT体制そのものの機能不全を指摘する声も強まっている。
■日本政府の役割
政府は昨年の広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)でまとめた核軍縮文書「広島ビジョン」を基に「核軍縮の機運を高める」との姿勢を貫く。ただこの文書に対しては、核兵器の保有を前提にした核抑止力を「事実上肯定している」との批判も根強い。
広島で7歳の時に被爆した日本被団協の児玉三智子事務局次長(86)は、今回の準備委でいとこをみとった体験を証言する。「二度と被爆者を生まないため、政府は核抑止を乗り越える取り組みを打ち出してほしい」と求める。(宮野史康)
核拡散防止条約(NPT)
1970年に発効し、191カ国・地域が加盟する。米ロ英仏中に核兵器の保有を認める代わりに核軍縮の交渉義務を課す。事実上の核保有国であるイスラエル、インド、パキスタンは未加盟。北朝鮮は2003年に脱退を表明した。原則5年ごとに再検討会議を開き、核軍縮や不拡散の取り組みを盛り込んだ最終文書の合意を目指す。3年前から毎年、準備委員会を開く。
(2024年7月20日朝刊掲載)