社説 バイデン氏撤退 国際的役割踏まえ論戦を
24年7月23日
11月の米大統領選で再選を目指した民主党のバイデン大統領が、撤退を表明した。81歳の高齢不安を拭えず、党内の要求に応じた格好だ。
現職大統領の撤退は56年ぶりとなる。暗殺未遂事件を切り抜け、勢いに乗る共和党のトランプ前大統領に、このままでは勝てない―。そんな強い危機感が、異例の決断を後押ししたのは間違いない。
とはいえ、バイデン氏の任期は来年1月まで残っている。米政権がレームダック(死に体)も同然となれば、国際社会や同盟国日本にも大きな影響が及ぶ。選挙結果にかかわらず、大国の責務を全力で果たすよう求めたい。
ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザでの戦闘は今も続き、国際情勢は予断を許さない。
とりわけガザを巡っては、バイデン氏がイスラエルとハマスの停戦案を示すなど重要な役割を担ってきた。イスラエルのネタニヤフ首相は近くバイデン氏と会談するが、今回の表明がガザ情勢の混迷に拍車をかける可能性もある。
ウクライナでは、米国の支援に消極的なトランプ氏への警戒感が強い。ゼレンスキー大統領は「バイデン氏はこの恐ろしい戦争の間、ずっと私たちを支え続けてくれた」と交流サイト(SNS)に投稿。支援の継続を訴えたが、心中は穏やかではあるまい。
日本にとっても人ごとではない。岸田文雄首相はバイデン氏と蜜月関係を築き、東アジアを超える「グローバル・パートナー」として防衛や経済安全保障での結び付きを強めてきたからだ。
米国偏重も目に余るが、実態が「バイデン偏重」であったなら影響は計り知れない。自国第一主義を掲げるトランプ氏は友好国でも関税を引き上げるよう主張する。同氏との接触を含め、政府は関係の再構築への備えを急ぎたい。
バイデン氏が後継候補として支持を表明したのはハリス副大統領だ。ジャマイカ系の父とインド系の母を持つ女性で59歳と若い。78歳のトランプ氏に、年齢や多様性で対抗できると踏んだのだろう。
ハリス氏が最有力候補とはいえ、無条件で承認されるわけではない。属性だけでなく、指導者にふさわしい能力や政策のビジョンが問われる。何よりも公正で透明な手続きがなくては、民主主義大国の名折れとなろう。
新たな候補者は8月19~22日の民主党大会で約3900人の代議員が選ぶ。「副大統領としての実績は乏しい」とも指摘されるハリス氏ら候補者が、国内外の課題解決に向けた政策を明確にして結束を固める場とするべきだ。
これまで民主、共和両党は互いのトップを個人攻撃し、分断を助長するような中傷合戦を繰り返してきた。
今聞きたいのは人格批判や悪口ではない。世界の自由と民主主義を守る米国のリーダーがどんなビジョンを描き、どう実現していくかである。
国内の分断を放置し、内向きの姿勢に終始していては世界の安定など望めまい。両党には紛争解決策を含め、実のある論戦を期待したい。
(2024年7月23日朝刊掲載)
現職大統領の撤退は56年ぶりとなる。暗殺未遂事件を切り抜け、勢いに乗る共和党のトランプ前大統領に、このままでは勝てない―。そんな強い危機感が、異例の決断を後押ししたのは間違いない。
とはいえ、バイデン氏の任期は来年1月まで残っている。米政権がレームダック(死に体)も同然となれば、国際社会や同盟国日本にも大きな影響が及ぶ。選挙結果にかかわらず、大国の責務を全力で果たすよう求めたい。
ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザでの戦闘は今も続き、国際情勢は予断を許さない。
とりわけガザを巡っては、バイデン氏がイスラエルとハマスの停戦案を示すなど重要な役割を担ってきた。イスラエルのネタニヤフ首相は近くバイデン氏と会談するが、今回の表明がガザ情勢の混迷に拍車をかける可能性もある。
ウクライナでは、米国の支援に消極的なトランプ氏への警戒感が強い。ゼレンスキー大統領は「バイデン氏はこの恐ろしい戦争の間、ずっと私たちを支え続けてくれた」と交流サイト(SNS)に投稿。支援の継続を訴えたが、心中は穏やかではあるまい。
日本にとっても人ごとではない。岸田文雄首相はバイデン氏と蜜月関係を築き、東アジアを超える「グローバル・パートナー」として防衛や経済安全保障での結び付きを強めてきたからだ。
米国偏重も目に余るが、実態が「バイデン偏重」であったなら影響は計り知れない。自国第一主義を掲げるトランプ氏は友好国でも関税を引き上げるよう主張する。同氏との接触を含め、政府は関係の再構築への備えを急ぎたい。
バイデン氏が後継候補として支持を表明したのはハリス副大統領だ。ジャマイカ系の父とインド系の母を持つ女性で59歳と若い。78歳のトランプ氏に、年齢や多様性で対抗できると踏んだのだろう。
ハリス氏が最有力候補とはいえ、無条件で承認されるわけではない。属性だけでなく、指導者にふさわしい能力や政策のビジョンが問われる。何よりも公正で透明な手続きがなくては、民主主義大国の名折れとなろう。
新たな候補者は8月19~22日の民主党大会で約3900人の代議員が選ぶ。「副大統領としての実績は乏しい」とも指摘されるハリス氏ら候補者が、国内外の課題解決に向けた政策を明確にして結束を固める場とするべきだ。
これまで民主、共和両党は互いのトップを個人攻撃し、分断を助長するような中傷合戦を繰り返してきた。
今聞きたいのは人格批判や悪口ではない。世界の自由と民主主義を守る米国のリーダーがどんなビジョンを描き、どう実現していくかである。
国内の分断を放置し、内向きの姿勢に終始していては世界の安定など望めまい。両党には紛争解決策を含め、実のある論戦を期待したい。
(2024年7月23日朝刊掲載)