海自呉地方隊創設70年 第4部 一斉処分 <上> 特定秘密
24年7月24日
特定秘密の不適切運用や潜水手当の不正受給などの不祥事で防衛省は12日、自衛官たち218人(延べ220人)を一斉に処分したと発表した。中でも海上自衛隊の不祥事では、背景にずさんな運用を続ける体質と慢性的な人員不足がある。組織は変わることができるのか。呉基地のある呉市から現状と課題をみた。
iv style="font-size:106%;font-weight:bold;">運用ずさん 人員も不足 iv>
「現場の状況見直しを」
「仲間がいろんな不安を与えていることを申し訳なく思う」。海自呉地方隊の創設70年に合わせ、市との包括連携協定の締結式が呉地方総監部であった22日、二川達也呉地方総監は不祥事の受け止めを語った。「ほとんどの隊員は一生懸命任務に当たっている。規律を維持し、前に進んでいける形で組織を運営していく」と続けた。
呉の護衛艦端緒
延べ220人のうち115人は特定秘密を不適切に取り扱っていた。違反58件のうち38件は海自の艦艇で発生。違反が発覚する端緒になったのは呉基地を母港とし、昨年1月に山口県沖で座礁事故を起こした護衛艦「いなづま」だった。
座礁事故までの約2カ月間、特定秘密を取り扱うのに必要な「適性評価」を経ていない隊員がレーダーや通信の情報が集まる戦闘指揮所(CIC)で、船舶の航跡情報などの秘密を取り扱う任務に当たっていた。一斉処分でも適性評価未実施の隊員が日常的にCICに出入りし、特定秘密を取り扱ったり、知りうる状態にいたりしたことが明らかになった。
特定秘密保護法は米国から秘密保全の徹底を求められた経緯もあり、2014年に施行された。CICに勤務していた元隊員によると、機密情報を扱う部屋はドアの先にカーテンがかけられるなど中の様子が見えないようになっていたという。「情報管理を厳しく教育され、CIC内には緊張感があった。出入りも厳格に運用されていたはず」といぶかる。
採用率過去最低
50代の別の元隊員は「適性評価を受けた人が休む場合、受けていない人を業務に充てざるを得ない。慢性的な人員不足が問題だ」とする。23年度の自衛官採用率は過去最低の51%で、人員不足の改善は簡単には見通せない。
特定秘密の取り扱いを巡っては23年に衆院情報監視審査会が、秘密漏えいを受けて情報保全体制の改善を求める勧告をした経緯がある。同審査会は17日、木原稔防衛相に抜本的な改善を求め、再び勧告。「防衛省は23年の勧告を重く受け止めず、真摯(しんし)に取り組んでこなかった」と指摘した。同省は再発防止に向け、適性評価の対象をCICなどに立ち入る全隊員に拡大し、保全区画への入退室を一元的に管理するシステムの構築などを進める方針を掲げる。
呉地方総監を務めた金沢工業大虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授は「もともと日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法で『特別防衛秘密』の取扱者を規定していた中で、さらに特定秘密保護法ができた。適性評価は書類作成に時間を要し、許可に1年かかることもある」とする。その上で、護衛艦隊の任務は増えている一方で、人や装備は足りず訓練も不十分だと指摘。「再発防止のためには現場の状況を見直すべきだ」と指摘する。
防衛省による一斉処分
特定秘密の不適切運用や潜水手当の不正受給などの不祥事で、防衛省は12日、過去最大級の218人(延べ220人)の自衛官たちの処分を発表した。指揮監督に当たる酒井良海上幕僚長たち最高幹部6人の一斉処分は極めて異例。その他の処分は、特定秘密の不適切運用115人▽潜水手当の不正受給74人▽自衛隊施設での不正飲食22人▽パワハラ3人。同省はその後、一部に12日より前の処分が含まれていたと修正した。
特定秘密保護法
防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野で「国の安全保障に著しい支障を与える恐れがあり、特に秘匿が必要である」情報を特定秘密に指定し、流出しないようにするための法律。2014年12月施行。公務員らが外部に漏らした場合、最高で懲役10年が科される。特定秘密を扱う公務員たちの身辺を調べる「適性評価」も実施する。23年末時点の総指定件数は751件。国民の知る権利の侵害を指摘する意見もある。
(2024年7月24日朝刊掲載)
「現場の状況見直しを」
「仲間がいろんな不安を与えていることを申し訳なく思う」。海自呉地方隊の創設70年に合わせ、市との包括連携協定の締結式が呉地方総監部であった22日、二川達也呉地方総監は不祥事の受け止めを語った。「ほとんどの隊員は一生懸命任務に当たっている。規律を維持し、前に進んでいける形で組織を運営していく」と続けた。
呉の護衛艦端緒
延べ220人のうち115人は特定秘密を不適切に取り扱っていた。違反58件のうち38件は海自の艦艇で発生。違反が発覚する端緒になったのは呉基地を母港とし、昨年1月に山口県沖で座礁事故を起こした護衛艦「いなづま」だった。
座礁事故までの約2カ月間、特定秘密を取り扱うのに必要な「適性評価」を経ていない隊員がレーダーや通信の情報が集まる戦闘指揮所(CIC)で、船舶の航跡情報などの秘密を取り扱う任務に当たっていた。一斉処分でも適性評価未実施の隊員が日常的にCICに出入りし、特定秘密を取り扱ったり、知りうる状態にいたりしたことが明らかになった。
特定秘密保護法は米国から秘密保全の徹底を求められた経緯もあり、2014年に施行された。CICに勤務していた元隊員によると、機密情報を扱う部屋はドアの先にカーテンがかけられるなど中の様子が見えないようになっていたという。「情報管理を厳しく教育され、CIC内には緊張感があった。出入りも厳格に運用されていたはず」といぶかる。
採用率過去最低
50代の別の元隊員は「適性評価を受けた人が休む場合、受けていない人を業務に充てざるを得ない。慢性的な人員不足が問題だ」とする。23年度の自衛官採用率は過去最低の51%で、人員不足の改善は簡単には見通せない。
特定秘密の取り扱いを巡っては23年に衆院情報監視審査会が、秘密漏えいを受けて情報保全体制の改善を求める勧告をした経緯がある。同審査会は17日、木原稔防衛相に抜本的な改善を求め、再び勧告。「防衛省は23年の勧告を重く受け止めず、真摯(しんし)に取り組んでこなかった」と指摘した。同省は再発防止に向け、適性評価の対象をCICなどに立ち入る全隊員に拡大し、保全区画への入退室を一元的に管理するシステムの構築などを進める方針を掲げる。
呉地方総監を務めた金沢工業大虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授は「もともと日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法で『特別防衛秘密』の取扱者を規定していた中で、さらに特定秘密保護法ができた。適性評価は書類作成に時間を要し、許可に1年かかることもある」とする。その上で、護衛艦隊の任務は増えている一方で、人や装備は足りず訓練も不十分だと指摘。「再発防止のためには現場の状況を見直すべきだ」と指摘する。
防衛省による一斉処分
特定秘密の不適切運用や潜水手当の不正受給などの不祥事で、防衛省は12日、過去最大級の218人(延べ220人)の自衛官たちの処分を発表した。指揮監督に当たる酒井良海上幕僚長たち最高幹部6人の一斉処分は極めて異例。その他の処分は、特定秘密の不適切運用115人▽潜水手当の不正受給74人▽自衛隊施設での不正飲食22人▽パワハラ3人。同省はその後、一部に12日より前の処分が含まれていたと修正した。
特定秘密保護法
防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野で「国の安全保障に著しい支障を与える恐れがあり、特に秘匿が必要である」情報を特定秘密に指定し、流出しないようにするための法律。2014年12月施行。公務員らが外部に漏らした場合、最高で懲役10年が科される。特定秘密を扱う公務員たちの身辺を調べる「適性評価」も実施する。23年末時点の総指定件数は751件。国民の知る権利の侵害を指摘する意見もある。
(2024年7月24日朝刊掲載)