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連載・特集

海自呉地方隊創設70年 第4部 一斉処分 <下> 不正受給

「組織文化」 根深い問題

部隊ぐるみで長年黙認か

 呉市の海上自衛隊呉基地を拠点とする潜水艦救難艦「ちはや」。潜水艦にトラブルが発生した際に乗員の救助に当たるのが主な任務だ。国内に配備されている救難艦は横須賀基地(神奈川県)の「ちよだ」と合わせて2隻だけ。この2隻のダイバーたち74人が潜水手当の不正受給で処分された。

 「深い海での作業は精神的にも肉体的にも過酷」という潜水訓練などに対する手当だが、訓練をしていないのに実施したと偽ったり、時間や潜った深さを水増ししたりしていた。1500時間を超える架空の訓練で約200万円を受給した隊員もいた。不正受給の総額は5300万円に上るとみられる。

外部の目乏しく

 防衛省によると、不正受給は海曹や海士のダイバーのトップで、訓練を計画する「潜水員長」が主導。幹部を含め隊員の多くが黙認していた。「先輩がやっていたので駄目だと思いながら踏襲した」と話す隊員もいるという。

 「部隊ぐるみでないとできない行為」と、海自呉地方隊のある隊員は声を落とす。今回の処分は2017年4月から約5年半の不正受給。だがこの隊員は「潜水艦乗りならずっと潜水艦に勤務する。護衛艦や掃海隊なども同じ。外からの目が乏しいので、不正が長年受け継がれていてもおかしくない」とみる。

 海自出身で「平和を求める元自衛官と市民の会」の形川(なりかわ)健一共同代表(55)=三次市=は「予算消化のため、昔から組織的にしてきた『不当支給』と言える。どこの部隊でもあり得る」と指摘する。

 一方、国内の半数以上が呉基地を母港とする潜水艦を巡って、修理契約に絡み川崎重工業が裏金を捻出し、商品券や生活用品を乗員に提供しているという疑惑も浮上している。同省は特別防衛監察に入った。

「接待慣れ体質」

 潜水艦関連の仕事を受注している、ある企業の担当者は「予算が潤沢だから防衛省の仕事は本当においしい。ほぼ使わない予備品を納入しても誰も何も言わない」と話す。その上で「会社に天下りしてきた元幹部は接待慣れしていて、何か差し出されても全く恐縮せずもらう。こうした体質も今の組織の体たらくにつながっているのでは」と語気を強めた。

 「組織文化に大きな問題がある。見て見ぬふりをする、なあなあの体制が残っている。文化は容易に変わらない」。海自のトップを引責辞任した酒井良・前海上幕僚長が12日の記者会見で語った言葉に、問題の根深さがにじむ。

 現役の頃、組織改革に携わった経験があるという呉市在住の元幹部の男性は「自浄作用がない組織に将来はない」と、国防を担う組織の行く末を危惧する。(この連載は衣川圭、栾暁雨、小林旦地が担当しました)

(2024年7月25日朝刊掲載)

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