社説 パリ五輪開幕 あるべき姿 問われる祭典
24年7月26日
パリ五輪が26日開幕する。新型コロナウイルス禍の東京五輪から一転、観客と歓声が戻ってくる。参加選手の男女同数が初めて実現する大会でもある。
セーヌ川で開会式があり、エッフェル塔やベルサイユ宮殿の周辺も競技会場に。フランスらしさを存分に感じる大会になろう。街を丸ごと使うだけにテロや犯罪を防ぐ厳重な警備、警戒を望みたい。
テーマに掲げるのは、五輪と社会の「持続可能性」である。会場の新設を二つに抑え、使い捨てのない「脱プラスチック」を図る。
巨額の開催経費を理由に、招致から手を引く都市が相次いでいる。開催準備に伴う開発は環境に大きな負荷を与える。当然の流れだろう。
とはいえ、五輪自体の持続可能性となれば、肥大化に伴う課題は一向に片付いていない。
招致や運営を巡る不正はパリ大会でも表面化した。パリ五輪・パラリンピックの組織委員会は昨年、不正利得などの疑いで捜査当局の家宅捜索を受けた。
東京五輪・パラリンピックを舞台にした汚職・談合事件では、スポーツビジネスの闇が露呈した。国際オリンピック委員会(IOC)が進めた商業化の弊害であるのは明らかだ。
温暖化で夏季大会は酷暑の開催を迫られる。プロスポーツや放映権を支払うテレビ局の都合が優先され、期間を7~8月から動かせない。およそアスリートファーストとは呼べない。
国威発揚と結び付いたメダル至上主義も幅を利かせる。ドーピングやハラスメントの横行を招いたのは明らかだ。
ロシアが侵攻したウクライナでの戦闘や、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザの攻撃はやむ兆しがない。国連が決議した「五輪休戦」は無視された。ウクライナとガザでは、アスリートが戦争の犠牲になっている。
IOCはロシアとベラルーシの選手について、戦争を支持しないとの条件を満たせば「中立選手」として参加を認めた。この判断に賛否が渦巻く。反発するロシアは五輪に代わる国際招待大会を開く。スポーツ界にこれ以上、分断を持ち込むべきではない。
私たちが五輪に引かれるのはなぜだろう。最高峰の舞台で限界に挑むアスリートの姿や、勝敗を超えた相手への称賛に、人類の可能性を見いだすからではないか。
創始者クーベルタンは、五輪を平和運動に進化させることを夢見た。世界中から国や人種、宗教の違う若者が一堂に会し、競技を通して互いの理解と友情を育む。その原点へ立ち返る機会に、彼の生誕の地で100年ぶりに開かれる大会がなることを願う。
日本からは400人を超える選手が参加する。積み重ねた練習の成果を存分に発揮し、各国・地域の選手と交流を深めてもらいたい。
五輪の抱える問題は、身近な暮らしとも地続きである。17日間の熱戦を期待しながら、私たちができることを改めて考えたい。
(2024年7月26日朝刊掲載)
セーヌ川で開会式があり、エッフェル塔やベルサイユ宮殿の周辺も競技会場に。フランスらしさを存分に感じる大会になろう。街を丸ごと使うだけにテロや犯罪を防ぐ厳重な警備、警戒を望みたい。
テーマに掲げるのは、五輪と社会の「持続可能性」である。会場の新設を二つに抑え、使い捨てのない「脱プラスチック」を図る。
巨額の開催経費を理由に、招致から手を引く都市が相次いでいる。開催準備に伴う開発は環境に大きな負荷を与える。当然の流れだろう。
とはいえ、五輪自体の持続可能性となれば、肥大化に伴う課題は一向に片付いていない。
招致や運営を巡る不正はパリ大会でも表面化した。パリ五輪・パラリンピックの組織委員会は昨年、不正利得などの疑いで捜査当局の家宅捜索を受けた。
東京五輪・パラリンピックを舞台にした汚職・談合事件では、スポーツビジネスの闇が露呈した。国際オリンピック委員会(IOC)が進めた商業化の弊害であるのは明らかだ。
温暖化で夏季大会は酷暑の開催を迫られる。プロスポーツや放映権を支払うテレビ局の都合が優先され、期間を7~8月から動かせない。およそアスリートファーストとは呼べない。
国威発揚と結び付いたメダル至上主義も幅を利かせる。ドーピングやハラスメントの横行を招いたのは明らかだ。
ロシアが侵攻したウクライナでの戦闘や、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザの攻撃はやむ兆しがない。国連が決議した「五輪休戦」は無視された。ウクライナとガザでは、アスリートが戦争の犠牲になっている。
IOCはロシアとベラルーシの選手について、戦争を支持しないとの条件を満たせば「中立選手」として参加を認めた。この判断に賛否が渦巻く。反発するロシアは五輪に代わる国際招待大会を開く。スポーツ界にこれ以上、分断を持ち込むべきではない。
私たちが五輪に引かれるのはなぜだろう。最高峰の舞台で限界に挑むアスリートの姿や、勝敗を超えた相手への称賛に、人類の可能性を見いだすからではないか。
創始者クーベルタンは、五輪を平和運動に進化させることを夢見た。世界中から国や人種、宗教の違う若者が一堂に会し、競技を通して互いの理解と友情を育む。その原点へ立ち返る機会に、彼の生誕の地で100年ぶりに開かれる大会がなることを願う。
日本からは400人を超える選手が参加する。積み重ねた練習の成果を存分に発揮し、各国・地域の選手と交流を深めてもらいたい。
五輪の抱える問題は、身近な暮らしとも地続きである。17日間の熱戦を期待しながら、私たちができることを改めて考えたい。
(2024年7月26日朝刊掲載)