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連載・特集

緑地帯 西谷真理子 私と中国地方出身のデザイナー④

 森英恵さん(1926~2022年)が、島根県の出身だと知ったのは、石見美術館の仕事をするようになってからだ。2020年、森さんはまだお元気で、ファッション担当の学芸員の人たちから、ことあるごとに名前を聞かされた。

 私はファッション雑誌の編集者だったし、1980年から2年半、パリ支局に赴任して、ハナエ・モリのオートクチュールのショーも取材していたから、森さんのデザインも特徴ある華やかな布地もその活動ぶりも知っていた。80年代には流行の先端を行っていた「流行通信」という雑誌も、そもそもは森さんが創刊したと聞いている。

 しかし、森さんの著作を読むと、知らなかった森さんが顔を出す。そこには、小学4年生の1学期までを過ごした島根県鹿足郡六日市村(のちに六日市町、現吉賀町)の話が出てくる。山口の医者の家出身の父は、母の実家のある六日市村で医院を開業し、5人の子どもを育てる。森さんは、4番目の子で、2人の兄と高津川の清流で泳ぎ、四季折々の自然に触れ、色についての原風景は、生家をとりまく自然にあると書かれている。田舎では教育ができないからと、東京に家を建てて、妻と子どもたちを東京に行かせ、自分だけが六日市に残った父を、森さんは、「勤勉。頑固で、とびきりおしゃれ。新しもの好きで、手先が器用」と評している。父には怖いほどの威厳があったが、よくある男尊女卑とは違うようだった。(編集者=東京都)

(2024年7月26日朝刊掲載)

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