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アジアの子へ 絵本届け30年 曹洞宗神應院(呉市) 西村住職に聞く

視野広げ 世界各地で平和紡ぐ一員に

 呉市の曹洞宗神應院(じんのういん)の檀信徒のグループが、紛争による難民を生んだカンボジアやミャンマーなど、アジア各国の子どもたちに絵本を届ける活動を続けて今年で30年となった。世界各地で今も紛争が絶えない中、平和の実現の一助になると信じて地道な歩みを重ねる。西村英昭住職(80)に思いを聞いた。(山田祐)

  ≪1970年代、カンボジアの旧ポル・ポト政権による大虐殺を受けて設営された難民キャンプを曹洞宗の僧侶グループが訪れたのが、支援のきっかけだった。≫

 世界中の企業や団体が物資の支援に着手しました。曹洞宗の僧侶有志のグループが自分たちに何ができるかを考え、思い至ったのが子どもに「文字」を届けることでした。メンバーに大学在学中にお世話になった先輩がいた縁もあり、神應院として活動を支援すると決めました。

 当初はさまざまな絵本を集めて送っていました。やがてグループが指定の絵本に訳文を貼り付けるキットを用意したので、取り寄せて作業し、返送するという形に切り替えました。取り組みの主体は「菩提樹の会」が引き受けてくれるようになり、寺として金銭面などで後押しを続けています。

 現地の子どもたちは一冊の絵本をみんなで読むので、すぐに傷みます。ぼろぼろになった絵本を順番に読んでいるのです。同じ内容でも、一冊でも多く送ることに意義があります。

 一冊一冊、喜んでくれる子どもがいる。それが何よりの喜びです。菩提樹の会のメンバーの誰も見返りを求めてはいません。みんなで陰徳を積んでいるのです。

 ≪国境を超えた支援活動の背景には、曹洞宗の開祖道元の教えがあるという。≫

 縁あってアジアの国々の子どもたちのために活動していますが、困っている人は世界のあちこちにいます。日本であろうと別の国であろうと関係なく、それを自分ごととして考えなくてはいけません。

 道元禅師の教え「只管打坐(しかんたざ)(ただ座る)」のイメージから、禅とは1人で突き詰める世界だと思われがちです。しかし、坐禅(ざぜん)でよく言われるのが「宇宙と一体になる」という言葉。吐く息、吸う息を通して宇宙と一体になっていく。打ち込むうちに分かってくるのが、自分がいかに孤独であるか、ということです。

 道元禅師もお釈迦(しゃか)様も、人間の命を、山や川、他の動物すべてを含めた自然の営みの一つとして捉えています。私の命とは自然の中の一つの動きに過ぎません。そのような視座に気持ちを持っていく教えこそが仏教なのでしょう。

 今は苦しい環境で暮らしている子どもたちに、絵本を通して視野を広げてもらいたい。やがて、各地で平和を紡いでいく一員になってくれることを願っています。

 グループは「菩提樹(ぼだいじゅ)の会」で、メンバーは主婦を中心に現在15人ほど。毎月本堂に集まり、日本語の絵本にカンボジアのクメール語など各国の訳文を貼り付ける。近年は年40~50冊のペースで送り、ラオスやアフガニスタンへも届けてきた。

 6月末、地域の人たちを招いて30年の歩みを振り返る報告会を開いた。約50人を前に、中心メンバーで西村住職の妹の信恵さん(64)が登壇。ミャンマーの難民キャンプで生まれた子どもを例に「絵本は外の世界の存在を知り、夢を紡いでいく糧になる」と活動の意義を説いた。

(2024年7月29日朝刊掲載)

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