広島 あす原爆の日 戦禍続く今こそ 平和へ行動を
24年8月5日
華やかな「平和の祭典」をかき消すかのように、武力による争いが続く。核には核で対抗しようとする抑止論もやまない。広島は6日、原爆の日を迎える。たった一発の爆弾が街を破壊し、子どもを含む大勢の市民の命を無差別に奪った。過ちを繰り返してはならない。79年前のあの日を世界は忘れてはならない。
「怖い」「怖いよ、お父さん」。ごった返す広島市の原爆資料館で、核の惨禍を伝える「無言の証人」を前に、少女が父親の手を何度も握りしめていた。「こんな時代だからこそ、平和の尊さを感じてほしくて」。父親は、つなぐことも少なくなったという11歳の娘の手の感触を確かめ、この夏に初めて資料館へ連れて来た理由を明かした。
ロシアによるウクライナへの侵攻は長期化し、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃も悪化している。近年にない厳しい国際情勢が、原爆被害を原点に世界平和を願う被爆地へ国内外の市民の関心を向けさせる。資料館には昨年度、過去最多の198万人が訪れた。本年度はさらに上を行くペースだ。
その心情を世界のリーダーたちは共有できているのだろうか。
昨年5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は「核兵器なき世界」を目指す姿勢を示したが、機運は高まっていない。米国はことし5月に34回目の臨界前核実験を強行。7月には日米両政府が、米国が核兵器を含む戦力で日本防衛に関与する「拡大抑止」の強化に合意した。核の威力にすがるのはロシアやイスラエルだけではない。
一方で焦燥感から、これまで口を閉ざしてきた被爆者たちが相次いでその体験を伝え始めた。ウクライナやガザの少年少女を79年前の自身と重ね「他の誰にも同じ思いをしてほしくない」と。
ヒロシマの叫びが世界に浸透すれば、核の使用も抑止も選択肢にならないはずだ。そのために何ができるのか。市民一人一人が平和を築く自覚を持ち、行動を強める夏にしたい。(渡辺裕明)
(2024年8月5日朝刊掲載)
「怖い」「怖いよ、お父さん」。ごった返す広島市の原爆資料館で、核の惨禍を伝える「無言の証人」を前に、少女が父親の手を何度も握りしめていた。「こんな時代だからこそ、平和の尊さを感じてほしくて」。父親は、つなぐことも少なくなったという11歳の娘の手の感触を確かめ、この夏に初めて資料館へ連れて来た理由を明かした。
ロシアによるウクライナへの侵攻は長期化し、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃も悪化している。近年にない厳しい国際情勢が、原爆被害を原点に世界平和を願う被爆地へ国内外の市民の関心を向けさせる。資料館には昨年度、過去最多の198万人が訪れた。本年度はさらに上を行くペースだ。
その心情を世界のリーダーたちは共有できているのだろうか。
昨年5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は「核兵器なき世界」を目指す姿勢を示したが、機運は高まっていない。米国はことし5月に34回目の臨界前核実験を強行。7月には日米両政府が、米国が核兵器を含む戦力で日本防衛に関与する「拡大抑止」の強化に合意した。核の威力にすがるのはロシアやイスラエルだけではない。
一方で焦燥感から、これまで口を閉ざしてきた被爆者たちが相次いでその体験を伝え始めた。ウクライナやガザの少年少女を79年前の自身と重ね「他の誰にも同じ思いをしてほしくない」と。
ヒロシマの叫びが世界に浸透すれば、核の使用も抑止も選択肢にならないはずだ。そのために何ができるのか。市民一人一人が平和を築く自覚を持ち、行動を強める夏にしたい。(渡辺裕明)
(2024年8月5日朝刊掲載)