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社説・コラム

天風録 『米国と、きのこ雲』

 米国で最も汚染された場所―。長崎原爆をはじめ核兵器用プルトニウムを製造してきたワシントン州のハンフォード核施設は今、そう呼ばれる。閉鎖から30年余り、2億リットルを超す放射性廃液が地下に残る。処理には半世紀以上もかかるそうだ▲その核施設周辺のベッドタウンが「リッチランド」だ。名前を聞いて、思い出す人もいるのではないか。きのこ雲をあしらった校章を持つ高校がある街だ、と。そこが舞台のドキュメンタリーが広島で上映されている▲校章を変えて、との声は地元でも出た。ただ「原爆が戦争の終結を早めた」と思う住民が多く、米国の原爆観の壁は厚かった。生徒による投票が1988年にあり、8割以上が改めてきのこ雲を選んだ▲状況は少し変わったようだ。「たとえ校章が銃でも嫌」「胸を張れない」「真逆の考えの人もいる」…。生徒たちが語り合う映画の一場面が印象的だ。視野を広げた若者に希望を感じる▲周辺住民の中には、健康被害を訴える人も少なくない。「核戦争」と同様に核の開発・製造にも「勝者はいない」。ハンフォードの歴史はそれを示しているようだ。広島・長崎の日を前に、核兵器の罪深さを改めて胸に刻む。

(2024年8月5日朝刊掲載)

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