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被爆体験語らなかったシスター 大伯母の遺志 音楽で届けたい バイオリン奏者伊藤さん 8日広島で演奏

 広島で被爆し、シスターとして社会に尽くした大伯母の平和への遺志を音楽に乗せ届けたい―。チェコ国立ブルノフィルハーモニー管弦楽団のバイオリン奏者伊藤さくらさん(32)が今夏、大伯母の故新沢美枝子さんの古里広島でチャリティーコンサートを開く。(小林可奈)

 世界的に活躍する伊藤さんは兵庫県出身。幼い頃から母親の実家があった広島をしばしば訪れ、社会奉仕活動に励む新沢さんを見てきた。祖父の姉に当たる新沢さんは20代からシスターとして広島の更生保護施設などで生活。非行少女たちに向き合っていた。生前、自身の被爆体験を語ることはほとんどなかった。

 戦後70年を過ぎた頃、伊藤さんは母親から、90歳を超えた新沢さんが書いた手記を手渡された。宇品(現南区)の勤務先へ向かう途中に市電の中で被爆した体験や、当時の惨状が書かれていた。姉を失い「『なぜ生き残ったのか』という自分への問いが、生き残った生命の重圧となり、日々苦しみ続けました」ともつづられていた。

 被爆後に身を寄せた祇園町(現安佐南区)で被爆者を救護した外国人神父らの姿に心打たれ、シスターを志したとも書いてあった。核兵器廃絶と平和な世界を祈り続けることが「生き残った者のやるべき使命」とも。

 「晩年まで言葉にできなかった大伯母の体験や思いをこれからの世界に生かさなければ」。伊藤さんは思いを強くした。

 新沢さんは2022年に死去。その1週間後、ロシアがウクライナに侵攻した。チェコに避難民が押し寄せる中、伊藤さんは「音楽家としてできることを」とパートナーのオーストリア人チェロ奏者グスタフ・ボッヒャーさん(29)とコンサートを企画。念願の被爆地公演が決まった。「平和や核廃絶を祈り続けた大伯母の願いを音色に込めたい」と話す。

 8日午後6時45分から中区の県民文化センターで。一般2500円(前売り2千円)、学生(小学生以上)千円。入場料収入は国連児童基金(ユニセフ)に寄付する。☎082(222)0828。

(2024年8月4日朝刊掲載)

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