念願の被爆伝承者 責任胸に 広島大の井上さん 体験引き継ぐ川本省三さん死去 一度は断念 要件緩和で道開ける
24年8月6日
原爆で孤児となった故川本省三さんの被爆体験伝承者を務める広島大医学部6年の井上つぐみさん(24)=広島市安芸区=が5日、中区で小学生たちに講話した。研修中に川本さんが亡くなったため一度は断念したが、市の制度変更で今春に伝承者になれた。「平和への思いを途絶えさせてはいけない」。受け取ったバトンをつないでいる。(下高充生)
「たった11歳で独りぼっちになってしまいました。不安とあまりのショックで涙も出なかったそうです」。井上さんは大阪府から訪れた小学生たち25人を前に、家族6人を原爆に奪われた川本さんの半生を語った。
父や姉の名前を呼び救護所を歩き回った、結婚を申し込んだ相手の親に広島にいたのを理由に断られた…。「当たり前の日常を守るため、一人一人が考え、語り継ぐのが大切」と呼びかけた。
中高生時に川本さんの証言を聞き、大学1年時の2019年に伝承者になる研修を始めた。新型コロナウイルス禍で講話の原稿を確認してもらう作業が進まぬまま、22年6月に川本さんが88歳で死去。当時は研修中に体験を引き継ぐ被爆者が亡くなった場合、伝承者になれなかった。「もっと早く原稿を完成させておけば」と自分を責めた。
23年7月に市の要件緩和を受け、伝承者への道が開けた。「伝えたいのに伝えられない日々だったので、うれしく、責任も感じた」と振り返る。
この日は講話を終えると子どもたちから質問が相次いだ。「若者への伝承は任せたよ」。川本さんの言葉を思い起こし、「ちょっとずつだけど頑張っているよ」と表情を和らげた。
(2024年8月6日朝刊掲載)
「たった11歳で独りぼっちになってしまいました。不安とあまりのショックで涙も出なかったそうです」。井上さんは大阪府から訪れた小学生たち25人を前に、家族6人を原爆に奪われた川本さんの半生を語った。
父や姉の名前を呼び救護所を歩き回った、結婚を申し込んだ相手の親に広島にいたのを理由に断られた…。「当たり前の日常を守るため、一人一人が考え、語り継ぐのが大切」と呼びかけた。
中高生時に川本さんの証言を聞き、大学1年時の2019年に伝承者になる研修を始めた。新型コロナウイルス禍で講話の原稿を確認してもらう作業が進まぬまま、22年6月に川本さんが88歳で死去。当時は研修中に体験を引き継ぐ被爆者が亡くなった場合、伝承者になれなかった。「もっと早く原稿を完成させておけば」と自分を責めた。
23年7月に市の要件緩和を受け、伝承者への道が開けた。「伝えたいのに伝えられない日々だったので、うれしく、責任も感じた」と振り返る。
この日は講話を終えると子どもたちから質問が相次いだ。「若者への伝承は任せたよ」。川本さんの言葉を思い起こし、「ちょっとずつだけど頑張っているよ」と表情を和らげた。
(2024年8月6日朝刊掲載)