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社説・コラム

天風録 『あの日の熱さ』

 26・8度。あの朝8時15分の広島の気温が江波山の観測所に記録されている。現代人なら慣れっこの暑さだろう。きのうの同時刻は既に30度近かった。想像してみる。直後に3千~4千度の炎に包まれ、燃え上がった街の熱さを▲〈焦熱(しょうねつ)地獄〉。妻子を捜して原爆投下後の街を歩いた小倉豊文さんは著書「絶後の記録」に記した。見渡す限りの火と黒煙。多くの人は肌が焼けただれ、横たわっていた。高熱のがれきの下で事切れた女性。幼児は死んだ母の口に何度も水を運んだ▲地獄の熱さの中で、夏の暑さはもはや問題ではなかったのだろう。〈太陽の熱より熱い。蓋(ふた)をしない大きな火消し壺(つぼ)のなかを歩いているようだ〉。死や苦しみのまとわりついた体感温度が、小倉さんの記述から伝わる▲「目を閉じて想像してください」。きのうの平和記念式典でこども代表の2人は呼びかけた。ジョン・レノンさんの名曲「イマジン」の歌詞にもある通り、平和への道は想像から始まる▲被爆から79年がたち、広島原爆の日がいつかを知らない人が増えているという。世界を見渡せば相手の被害や痛みに考えが及ばぬ為政者もいる。あの日の熱さを想像せよと迫り続けなければ。

(2024年8月7日朝刊掲載)

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