×

社説・コラム

『この人』 祖父の被爆地ルポを題材に映画をつくる キャノン・ハーシーさん

 米国による原爆投下から80年となる来年、祖父で米国人ジャーナリストの故ジョン・ハーシーの被爆地ルポ「ヒロシマ」(1946年)を題材に日米共同制作の映画を撮影する。「被爆者の記憶が核戦争を食い止め、われわれを生かしてくれている」。武力に頼る風潮がやまない今、原爆が生身の人間にもたらした被害の実態を、戦勝に沸く米国へ届けた祖父と被爆者の足跡に重い意義を見いだす。

 神父や医師らの被爆体験を伝えたヒロシマ。映画では登場人物の一人、広島の牧師の故谷本清さんのメモなどを参考に、被爆者の視点を盛り込む。互いに敵国の国民だった祖父と谷本さんが戦後に友情を育む姿も描く。「祖父は『あなたの隣人に起きたことだ』と言おうとしたと思う。映画も同じ精神で、誰もが受け取れる内容にしたい」

 米国で地方の公共放送を設立した祖母の影響を受けて育った。「社会に変化をもたらし、よりよくする責任はあなたにある」と事あるごとに説かれた。20代から社会課題をアートで表現。2015年に日米の平和団体の企画に参加して以降、平和に関するワークショップを広島などで重ねてきた。

 米国在住。映画の制作発表などのため34回目の広島訪問中で、6日にあった広島市の平和記念式典にも参列した。今回は初めて7~20歳の娘3人を連れてきた。「いずれ来る被爆者なき時代に、娘に『これを伝えていけ』と言える作品をつくりたい」。世代を超え、祖父の見たヒロシマを受け継いでいく。(下高充生)

(2024年8月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ