広島修道大の船津靖教授に聞く 背景にユダヤ人問題の歴史 「露とイスラエル 同列で語れぬ」
24年8月10日
米欧6カ国や欧州連合(EU)の駐日大使はなぜ、イスラエルが招待されなかったのを理由に長崎市の式典をこぞってボイコットしたのか。米欧と中東の関係に詳しい広島修道大の船津靖教授(68)に、背景を読み解いてもらった。(聞き手は編集委員・田中美千子)
米欧の決定には驚かない。米国の時の政権が「核兵器なき世界」を掲げたオバマ政権だったとしても、同じ対応をしたはずだ。大きく二つ、指摘したい。
一つは、各国が欠席の理由に挙げた通り、「ロシアとイスラエルは決して、同列では語れない」ということだ。私見を言えば、どちらの国の行為も国際法に違反している。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザの攻撃は、自衛権の過剰行使で、右派のネタニヤフ政権は指弾されるべきだ。それでも、ロシアの脅威、悪質さは比べものにならない。
イスラエルには、イスラム組織ハマスから無差別攻撃を受けた経緯がある。他方、ロシアは独立国家であるウクライナにいわれない攻撃を仕掛け、最終的に消し去ろうとしている。最悪の侵略犯罪だ。しかも、核戦力を持っているのだ。
もう一つのポイントは、長きにわたりユダヤ人を迫害してきた欧州や米国のキリスト社会には「反ユダヤ主義」への強烈な悔恨があるということだ。
特にナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)では、実に約600万人が犠牲になった。直接的な加害国はドイツだが、フランスは強制収容所へのユダヤ人輸送に加担。米国は、入国を目指すユダヤ難民を乗せた船を追い返した。
「原爆投下という大量虐殺を二度と許すまい」という式典にイスラエルを招かなければ、市の意図がどうであれ、各国は「史上最大の大量虐殺の犠牲者であるユダヤ人を排除した」と捉える。しかも、日本はナチス・ドイツと軍事同盟を結んでいた。反発は必至だ。
米国ではトランプ政権の登場後、白人至上主義が台頭し、反ユダヤ主義の事件が急増している。欧州各国でも近年、右派政党の躍進が目立つ。米欧はことさら神経をとがらせ、ユダヤ人問題を慎重に扱うわけだ。
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佐賀県伊万里市生まれ。東京大文学部卒。共同通信モスクワ、エルサレム、ロンドン特派員、ニューヨーク支局長、編集・論説委員などを経て16年から現職。近著に「聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか」(河出書房新社)。
(2024年8月10日朝刊掲載)
米欧の決定には驚かない。米国の時の政権が「核兵器なき世界」を掲げたオバマ政権だったとしても、同じ対応をしたはずだ。大きく二つ、指摘したい。
一つは、各国が欠席の理由に挙げた通り、「ロシアとイスラエルは決して、同列では語れない」ということだ。私見を言えば、どちらの国の行為も国際法に違反している。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザの攻撃は、自衛権の過剰行使で、右派のネタニヤフ政権は指弾されるべきだ。それでも、ロシアの脅威、悪質さは比べものにならない。
イスラエルには、イスラム組織ハマスから無差別攻撃を受けた経緯がある。他方、ロシアは独立国家であるウクライナにいわれない攻撃を仕掛け、最終的に消し去ろうとしている。最悪の侵略犯罪だ。しかも、核戦力を持っているのだ。
もう一つのポイントは、長きにわたりユダヤ人を迫害してきた欧州や米国のキリスト社会には「反ユダヤ主義」への強烈な悔恨があるということだ。
特にナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)では、実に約600万人が犠牲になった。直接的な加害国はドイツだが、フランスは強制収容所へのユダヤ人輸送に加担。米国は、入国を目指すユダヤ難民を乗せた船を追い返した。
「原爆投下という大量虐殺を二度と許すまい」という式典にイスラエルを招かなければ、市の意図がどうであれ、各国は「史上最大の大量虐殺の犠牲者であるユダヤ人を排除した」と捉える。しかも、日本はナチス・ドイツと軍事同盟を結んでいた。反発は必至だ。
米国ではトランプ政権の登場後、白人至上主義が台頭し、反ユダヤ主義の事件が急増している。欧州各国でも近年、右派政党の躍進が目立つ。米欧はことさら神経をとがらせ、ユダヤ人問題を慎重に扱うわけだ。
佐賀県伊万里市生まれ。東京大文学部卒。共同通信モスクワ、エルサレム、ロンドン特派員、ニューヨーク支局長、編集・論説委員などを経て16年から現職。近著に「聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか」(河出書房新社)。
(2024年8月10日朝刊掲載)