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探訪 まちの赤れんが <2> 愛知県半田市 元工場 戦争の記憶今に

 JR名古屋駅の南30キロ。愛知県半田市の中心部に古びた建物が立つ。ビアホールや展示室のある「半田赤レンガ建物」。れんが壁の弾痕が、戦争の記憶をとどめる。

 もともとは、スタジオジブリの映画「風立ちぬ」でも話題になった「カブトビール」の工場だった。完成は1898年。現在も展示室に、大阪や島根など各地への出荷を伝える写真を飾る。建物の運営を支える一般社団法人、赤煉瓦倶楽部(れんがくらぶ)半田の馬場信雄理事長(76)は「横浜のキリンや大阪のアサヒ…。大手と並ぶ生産拠点だった」と説く。

 製造は国策に沿い、戦前に止まった。いまは当時の製法を模したビールの「明治」と「大正」が来場者の喉を潤し、土産品にと買い求められる。

 建物は一時、消滅の危機にあった。戦後に取得し、コーンスターチを生産していた食品メーカーが1994年に閉鎖を発表。2階建て一部5階建て延べ約6900平方メートルのうち約1500平方メートルを取り壊した。

 全国の市民団体などが解体反対の声を上げた。要請を度々受けた市は95年、約3万3700平方メートルの敷地と建物を買う方針を決めた。「歴史的、文化的価値を持つ市民共有の貴重な財産」などと再認識した結果だった。

 ただ人口約10万人の市の財源は限られ、市議会は割れた。市は取得費を当初より抑えて約30億円にするなどして説得。96年、わずか2票差の議決で賛意を得た。

 保存決定後も、本格的な活用には時間を要した。転機は2005年のカブトビール復刻。「明治」の発売日に全国からの客が列を作った。「黎明(れいめい)期のビール工場」を中心にした観光拠点化につながった。

 北側の壁には直径10センチ前後の穴があちこちに残る。45年7月に米軍の空襲で機銃掃射を受けた跡だ。「ありのままにこの地の歴史を伝え、継ぐことが大事」と馬場理事長。被爆した広島市南区の旧陸軍被服支廠(ししょう)に通じる視点でもある。(樋口浩二)

(2024年8月16日朝刊掲載)

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