『生きて』 脚本家 池端俊策さん(1946年~) <9> ビートたけしさん
24年8月13日
すごみと繊細さが共存
知り合いの演出家に誘われて、ビートたけしさんとお酒を飲む機会があった。お笑いではすでに人気者。大島渚監督の映画「戦場のメリークリスマス」(1983年)の撮影の後で、役者として目覚めたんだろうね。すごく興奮した様子で、撮影の話をしてくれた。
≪連続女性誘拐殺人事件を扱った「大久保清の犯罪」(83年)などビートたけしさんと組んで数多くのヒット作を生む≫
一晩飲んでの印象は、大衆をつかんでいる人のすごみがあるんだけれど、繊細さ、優しさ、弱さが共存したような人だった。表の顔と全然違う顔を持っている。「大久保―」のドラマの構想を聞いた時は、うってつけだと思った。決して悪い意味ではない。芝居がうまい下手ではなく存在感があり、アップになっただけで複雑な怪しさがにじみ出ていた。
連続殺人犯を演じるということで、本人は複雑な気持ちもあったみたい。でも視聴率がものすごくて、放送後には大喜びしていた。「戦場の―」と合わせて、役者としてのスタートを切った時期だったんじゃないかなと思う。
≪「忠臣蔵」(90年)では、今までとは違った優柔不断な大石内蔵助に挑戦≫
めちゃくちゃ忙しい人だから、長いせりふはとても覚えられない。大野九郎兵衛に扮(ふん)する緒形拳さんとのやりとりでは、本番でも緒形さんの胸にせりふを書いた紙を張り付けて演技していた。不思議なもんで、一心に相手の胸に向かって話す表情には迫力があって、いちずな思いにみえる。緒形さんは「こんなの初めてで、やりにくいんだよなあ」なんて、こぼしていたけれど。
「イエスの方舟」(85年)や「破獄」(2017年)でもコンビを組んだ。一作一作が重いテーマだった。僕に向かって、「先生は難しい本を書くからなあ」なんて、つぶやいていたなあ。
(2024年8月13日朝刊掲載)