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連載・特集

『生きて』 脚本家 池端俊策さん(1946年~) <11> 帽子

被爆体験語り継ぐ使命

  ≪NHK広島放送局の開局80周年を記念した2008年のドラマ「帽子」は、自身の出身地である呉市の帽子店が舞台だ≫

 呉に山本五十六の軍帽を作った店があると知り、90歳を超えた帽子職人を取材したことがあった。誇りを持った職人の仕事ぶりは物語の素材として、興味深いものだった。それから2、3年後に「広島を舞台に」というオファーをもらい、ドラマ化できることになった。

 僕の本の登場人物には職人が多い。かつては日本中に、職人の技が光る個人店舗や町工場があった。しかし大量生産の荒波がやってきて、彼らの腕と誇りが否定される時代になってしまった。それで本当にいいのか。僕の中で大きなテーマとなっている。

 ≪原爆もテーマに据えた≫

 僕らの世代は胎内被爆の問題が身近にあった。原爆投下、そして終戦時は母親のおなかの中にいた世代だから。クラスメートには胎内被爆した人もおり、健康面や縁談などでとても苦労したという話も耳にした。原爆の被害は何十年たっても今なお人々の生活に影を落とす。語り継ぐことは、ドラマの使命でもあるはずだ。

 ≪老いた帽子職人と警備員を中心にストーリーは展開する≫

 同窓生に警備会社の研究所の所長がいて、見学させてもらったことがあった。警報ボタンが押されると、夜中でも駆けつける。非常に現代的なシステムで、面白いなと思った。家族の絆が希薄となる中、そのボタンを通じて、かろうじて他者とつながりを持っていける。舞台装置としてうまくはまった。

 頭の中の引き出しに、使えるエピソードをどれだけ入れておけるか。脚本家商売のこつではないかな。すぐに具体化しなくても、後から後からひっついてくる。日頃からの取材が大事なんです。

 ≪帽子職人役の緒形拳さんは放送の2カ月後の10月に亡くなる。最期の主演ドラマとなった≫

(2024年8月15日朝刊掲載)

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