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社説・コラム

『潮流』 戦争遺跡と自治体

■特別論説委員 岩崎誠

 北九州市が2年前、小倉城近くに開館した「平和のまちミュージアム」を訪れた。長崎の原爆が直前まで投下される予定だった都市として、戦争や空襲の実態を伝える施設だ。呼び物の360度シアターに新映像「北九州の戦跡~忘れてはならない歴史の語り部~」がことし加わった。

 往時の写真やナレーションを交えた10分ほどの映像は、小倉と一帯の戦争遺跡7カ所の風景に自分の目線で入り込むような臨場感があった。

 関門海峡を望む手向山の砲台跡。門司港から戦地に向かう軍馬の水飲み場。戦時下には西日本最大級に拡張され、接収した米軍が朝鮮戦争やベトナム戦争に使った山田弾薬庫の跡…。自治体として軍都の痕跡を直視し、平和の教訓にしようと発信する姿勢に共感する。

 その北九州市も戦争遺跡の史跡指定は進んでいない。軍事遺構を中心にした負の遺産を文化財にするかどうか。確かに自治体に温度差があり、民間の戦争遺跡保存全国ネットワークの昨年の報告では計365件の指定・登録にとどまった。大規模な自治体ほど慎重もしくは無関心のようだ。

 歳月を経て崩壊の危機にある戦争遺跡は少なくない。調査のないまま放置される場所もある。保存運動を担う人たちが冗談交じりによく口にする「荒れ砲台」である。

 その中でも九州山地に包まれる熊本県錦町は、巨大地下壕(ごう)を残す旧海軍の航空基地跡を6年前から「ひみつ基地ミュージアム」と銘打ち、観光資源としても活用する。

 終戦80年が迫る。何を残し、どう発信するかの議論は官民を問わず急ぐべきだ。全国ネットが毎年開く戦争遺跡保存全国シンポジウムがきょう、北九州市内で始まる。

(2024年8月17日朝刊掲載)

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