探訪 まちの赤れんが <3> 北海道函館市
24年8月18日
ホテルに再生 町と調和
巨大な倉庫群が海運で栄えたまちの趣を残す、北海道函館市南西部のベイエリア。その町並みに1棟のれんが建築が溶け込む。かつての昆布倉庫を改装して2021年に開業した「ニッポニアホテル函館港町」だ。
2階建て延べ約750平方メートルで、ロビーでは赤れんがの壁が存在感を放つ。神奈川県の会社員福永直美さん(59)は7月、れんが造りに引かれて宿泊。「歴史に思いをはせながらゆったり過ごせました。大満足です」と笑顔でホテルを後にした。
最初の所有者の北海道漁業協同組合連合会によると、建築年を示す資料はないが「築100年以上」という。昆布倉庫に使われた後、07年に地元ですし店などを経営する魚長(うおちょう)食品に売却。同社の資材などの物置になっていた。
一帯は築115年の「金森赤レンガ倉庫」を軸とする観光スポット。ホテル需要を見込んだ企業2社が19年、特定目的会社(SPC)を設けて約2億5千万円を投じ、全9室の宿に再生させた。
内部はれんがの内側をコンクートが囲む「入れ子構造」で強度を保つ。れんが壁はロビーや通路で生かされ、浴室のタイル代わりになっている部屋も。運営するバリューマネジメント(大阪市)財務管理部の西門正聡ゼネラルマネージャーは「唯一無二の空間を楽しんでもらっている」と語る。
バブル期にかけて一帯でマンション開発が相次ぎ、明治や大正期の建物が次々と取り壊された。惜しむ市民の声が強まり、市は景観保全に本腰を入れる。景観条例を制定し、1989年には金森レンガ倉庫も含む14・5ヘクタールが国の重要伝統的建造物群保存地区になった。
保存地区内にあるニッポニアホテルは23年、町並みとの調和などを評価され、市の都市景観賞を受賞した。市まちづくり景観課の種崎俊課長は「函館の歴史を伝える景観を市民と引き継いでいきたい」と話している。(樋口浩二)
(2024年8月18日朝刊掲載)