探訪 まちの赤れんが <4> 青森県弘前市
24年8月20日
アート発信 補強も工夫
青森県中西部、JR弘前駅から歩いて15分。住宅街の青空にれんが造りの赤茶色のコントラストが映える。築100年の弘前れんが倉庫美術館だ。戦前は民間の日本酒工場だった。戦後は別の会社が特産のりんご酒を造り、政府の備蓄米倉庫としても使われた。その2階建て延べ約3千平方メートルは2020年、現代アートの発信拠点に生まれ変わった。
春夏と秋冬で催す年2本の企画展が観光客を引き寄せる。現在は写真家蜷川実花さんによる「儚(はかな)くも煌(きら)めく境界」。7月に訪ねると、弘前城周辺の満開の桜など色鮮やかなカットが人気を集めていた。
企画展最大の「映えスポット」は、高さ15メートルの吹き抜け部分に配した造花と映像の立体作品という。美術館広報チームの大沢美菜さん(33)は「広い空間を大胆に使えるのでアートとは好相性なんです」と魅力を説く。
芸術拠点に転換するきっかけは、地元出身で世界的に知られる現代美術作家奈良美智さんの個展だった。「歴史ある建物で作品を見てほしい」と考え、備蓄米を保管する役割も終えていた倉庫で02、05、06年に開催。にぎわう様子が、弘前市を突き動かした。
市は15年、約4千平方メートルの敷地と建物を2億8600万円で購入。さらに建設や不動産など8社と連携し、市初の民間資金活用による社会資本整備(PFI)で25億2800万円で改装した。
「記憶の継承」をコンセプトに、耐震補強も工夫。れんが壁に鋼製の棒を垂直に挿入するなど内外観ともにできるだけ元の姿をとどめた。新型コロナウイルス禍で20、21年度の来館者は想定以下の2万人台だったが、本年度は22年度の4万7819人を上回る過去最多のペースになっている。
故前川国男氏ら著名な建築家を輩出した弘前。市文化振興課の鶴巻秀樹課長補佐は「れんが倉庫美術館を建築のまちのシンボルに育てたい」と話す。(樋口浩二)
(2024年8月20日朝刊掲載)