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連載・特集

『生きて』 脚本家 池端俊策さん(1946年~) <14> 脚本の保存活動

時代の空気感を後世に

  ≪2012年に設立された日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアムの代表理事を務める≫

 1980年以前のテレビやラジオの番組は、テープが高価だったため上書きされてしまい、ほとんど残っていない。そのため脚本や台本の収集、管理、データベース化を、国の支援を受けて進めている。

 市川森一さんが活動を提唱され、山田太一さんから代表理事を引き継いだ。過去の放送作品は、人々の暮らしの記録だ。親子がお茶の間で会話をする。恋人たちは流行のデートスポットを訪れる。そういったドラマのワンシーンからは、当時の言葉遣い、生活様式、街の姿が読み取れる。その時代の空気感を今に残す貴重な財産といえる。後世に残し、幅広い人の役に立てるよう努めていきたい。

 ≪優れた脚本を表彰する向田邦子賞の選考委員長も務めた。後進の育成に力を尽くした≫

 やっぱり作者の顔が見えるような作品が良い。ありきたりなせりふではなく、個性的な面白さを持った作品を選んできた。

 韓国ドラマに押されている状況が続いている。もちろん日本にも良い作品があるが、若い作家の多くが万事につけ、今にしか興味がない。自分たちをつくっている過去を凝視する姿勢があまり見えない。家族を描くにしても、親の世代、祖父母の世代のことを勉強せずにきちんとした家族は描けないのです。

 業界の課題として、人工知能(AI)とどう向き合うのかがある。AIはばらばらのものを組み合わせて一つの作品を作っちゃう。でも「あそこのせりふは俺が書いたやつだ」ってことがあり得る。著作権の問題について模索していく必要がある。

 同時に、AIに取って代わられるような脚本は駄目だと思う。人間は1億人いたら1億人みな違う。そして同じ人でも日々変わっていく。人の機微を丹念に見つめ、AIに書けないものを世に送り出していかないといけないだろう。

(2024年8月21日朝刊掲載)

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