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社説・コラム

社説 戦後処理の課題 民間人の被害 救済を急げ

 終戦80年の節目まで1年。長い戦争の末に列島が廃虚と化し、敗戦を迎えた日本は、さまざまに戦後処理を講じてきた。ある意味では原爆被爆者への援護措置も、そこに含まれていよう。

 積み残した懸案は少なくない。国の責務だと法律で明記しながら遅れがちな戦没者の遺骨収集がそうだ。アジアの被害者への戦後補償も完全に解決したとは言い難い。

 今からでもできることは前に進めたい。政治判断で急ぐべき一つが空襲被害者を救済する法律制定ではないか。

 超党派の「空襲議連」で法案の要綱を作成し、議員立法で提出する手前で足踏みが続く。後ろ向きだった自民党では議連参加者を中心に賛同が広がったが、6月に閉会した通常国会でも与党の調整がつかず時間切れとなった。

 法案の内容はこうだ。戦時下の日本国内で空襲や船舶からの砲撃などに遭って身体に障害があったり、心理的外傷を受けたりした生存者に一律50万円の特別給付金を払う。政府が空襲の実態を調査し、死没者の追悼施設を置く―。

 名古屋市は2010年度から空襲で重度の障害を負った民間人への見舞金を独自に支給している。その事例も参考にしたようだ。議連の要綱が定める金額や対象は限定的だが、軍と民間の不均衡解消につながる重い意味を持つ。

 国の援護施策は旧軍人・軍属に加え、10代の動員学徒も含めて国と雇用関係が確認されれば救済してきた。被爆者を除く民間の空襲被害は「一般戦災」として切り捨ててきた歴史がある。地上戦があった沖縄でも準軍属として戦闘参加した以外の多くの民間人は負傷しても援護対象とならないままで、この法案では、その点も配慮するという。

 少し前の議連の試算では必要な予算は23億円程度。これまでに旧軍人・軍属や遺族に累計で60兆円を超す恩給などが支払われたことに比べれば国民の負担は極めて小さい。

 戦争被害は国民が等しく我慢すべきだとする「受忍論」が、政府の基本方針にある。ただ空襲被害者が国に補償を求めた東京地裁・高裁の判決は請求自体は棄却しつつ、被害を救済するかどうかは国会の裁量に委ねられると指摘した。つまり議員立法なら支障はないということだ。

 政府・自民党には「戦後処理は終わっている」との見解もある。空襲被害の救済がアジアの戦後補償に波及することへの警戒があるようだ。

 しかし、この法案を巡って何より問われるのは自国が起こした戦争の不毛さである。

 生身の記憶の風化とともに戦争や戦没者をことさら美化する風潮がなくはない。民間人が苦しみを強いられた現実を直視し、そこから導かれた不戦の誓いを新たにする姿勢が今こそ必要ではないか。

 議連は早ければ次の臨時国会にも法案を提出したいとしていた。政局激動化の影響はまだ見通せない。空襲に限らず年老いた戦争被害者には、もう時間がない。戦後処理の問題と早急に向き合う姿勢が与野党ともに求められることを忘れてはならない。

(2024年8月22日朝刊掲載)

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