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連載・特集

『生きて』 脚本家 池端俊策さん(1946年~) <15> 人生はドラマ

新作へ尽きない探究心

 自身の人生をドラマ化することは難しいなあ。意外と狭い世界で生きてきたのでね。

 振り返ると、高校の部活で演劇というものに携わってから、ずっと同じ事を続けている。田村正和さん、木村拓哉さん、宮沢りえさんのドラマ「協奏曲」(1996年)など華やかな作品もあるが、どちらかというと地味なものを書いてきた。人間の負の部分。漂う人たち。家族。そういうテーマで書いたものを、周りの演出家や俳優が理解し、一緒に作ってくれた。本当に感謝している。

 脚本家業に飽きたことはない。性分に合っている。人のたどる道は千差万別。面白さや魅力を見いだして、ドラマチックに描く。楽しい作業だよ。子どもの頃、母がよく周りの人の面白い部分を楽しそうに話してくれた。似たんだろうね。

 呉の実家は海まで30秒。船の出港を眺めるのが好きでね。ドラマの登場人物が旅立つシーンを書くときは、その原風景を思い浮かべることが多かった。故郷は特別。東京に出て60年近いが「こちらの人間です」と言い切れないところがある。本来いるべきところにいない不思議な感覚。居が定まらない不安定感をどこかに抱えている。

  ≪3年前に亡くなった妻の保子さんとは大学時代に演劇を通じて知り合った≫

 卒業後、すぐに結婚した。脚本家として自立できるまでの10年間、フリーター生活の時期もあり、苦労をかけた。ドラマが好きで、僕の仕事がうまくいくと、僕以上に喜んでくれた。

 ≪原稿用紙に向かい、新作の構想を練る日々を送る≫

 書けども書けども人間の本質や、普遍性を持った何かに突き当たることはない。興味深い人や書物が目の前に現れたら探究心が躍り出す。それはこれからも。しかし、それを書き切ったと思える日は来ないでしょうね。=おわり (この連載は編集センター・山本庸平が担当しました)

(2024年8月22日朝刊掲載)

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